憂いが混ざる空の果て

□26
1ページ/1ページ

「イライラします…」



こんな気持ちは初めてです。

誰かに馬鹿にされたとか言葉を遮られたとか笑われたあのときとは少し違うイライラです。

虚無界に言って悪魔を殺そうか。

……違う。このイライラはそんなんじゃ収まらない気がします。


「何かがすっぽり無くなった感覚です」



思い当たることなんてないけど、このイライラしたような感情は名無しが来てからよく感じます。


……原因は名無し?

最近祓魔塾の勉強や何かと忙しいそうにしていました。

別段それにイライラはしません。仕方ないなくらいにしか感じません。

けど、名無しの口からオクムラリンの名前が出た時ボクは妙な焦りを感じました。

「燐君に感化されたのかな?」


名無しがオクムラリンに感化された?
意味がわかりません。

なのに胸がムカムカして無意味にイライラします。



「オクムラ…リン……」



口にくわえていたフォークが嫌な音をならしてに落ちていきました。

時計搭にいるのでフォークが地面についたかどうかわかりません。そんな些細なことも今はボクをイライラさせます。


―――ボクと話したり会ったりする機会が減った分だけ名無しはオクムラリンと会っているのでしょうか?

―――ボクの知らないところで話しているのでしょうか?


考えただけオクムラリンに対する憎悪が増えていく。



「殺してやる…っ」



どうしてそう思うのか。そんなことボクに分かるはずがありません。

ボクは無意識に握りしめていた拳の力を抜きました。



「お腹…空きました」



やっぱりさっき沢山食べておけばよかった。

ボクは兄上の部屋に戻ることにしました。





兄上の部屋には兄上しかいませんでした。
机に向かい書類とにらめっこしてます。楽しいのでしょうか?

見渡しても名無しがいません。それにまたボクの胸当たりがムカムカしました。



「アマイモンか…少しは頭を冷やしたか?」


「……名無しは?」


「開口一番にそれか?はぁ…名無しさんなら調理場にいる」


「何故ですか?」


「……はぁー…いけば分かるんじゃないか?」



それっきり兄上はまた机に視線を戻してしまいました。



「アマイモンめ…貴様らの痴話喧嘩に私を巻き込むな」



扉を開けた音と重なる兄上の声。気にせずにボクは名無しのいる調理場に向かいます。



調理場につけば中から食器の擦れる音と名無しの声が聞こえます。



「グリモアは15世紀から18世紀にかけて生み出されて…フムフム…悪魔召喚時に用いられる。じゃぁ、魔法円と関わり深いのか?あぁ文章を表したり………」


《ガゥガゥ!!》


「ん…?ぷっ!それなに!?」


《がぅがうー…がう!!》


「わけわかんねー」


「名無し?」


「ありアマイモンさん!?早いお帰りッスね!」


「……」(グゥー……)


「…やっぱり!おにぎりつくって正解ですね!」



調理場には教科書片手におにぎりを作る名無しの姿。
ベヒモスのもっている皿の上には不恰好なご飯のかたまり。



「アマイモンさん夕食全然食べてなかったじゃないですか?だからベヒモスと私で作りました。だから遠慮なくどーぞ!」


「……」



さっき感じていたイライラはその時にはなくなっていて。

次に感じたのはあのすっぽり無くなったなにかが埋まる感覚。

満たされたように暖かくなりました。



「名無し」


「えっ………っ!!あ、アマイモンさん!?」



なにがどうしてかわかりません。理由は妙にそうしたくなったから。


普段頭を叩いてばかりのボクが名無しを抱き締めるなんてあり得ない。

けどどうしてもそうしたくなってそうすることによってボクは満たされます。




だからどうかもう少しこのままでー……。



「アマイモンさん…?え?甘えた?」


「……ウザいです。喋らないでください」


「えぇー…なにそれ?心が痛い」

「名無しは暫く黙ってボクにこうされててください」


「……っわ、わかりましたよ」



おずおずとボクの背に回る名無しの手。



その時に


オクムラリンに絶対渡したくない、と

そう感じました。








end

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ