兎novel

□腐女子たちをどうにかして下さい
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 朝、起きたら虫になっていた男は有名ですが、私の場合は……

「これは……」

 目覚ましを止めたとき、そのやや骨ばった手に違和感を覚えた。むくと半身を起せば、「下半身」にも妙な触感が……私は、ベッドから起き上がるとそのまま鏡の前に立った。そこにいる「自分」は、いつもより深い青色の髪、いつもよりやや鋭い眼差し……でも、知らない顔ではない。

「凌牙?」

首を傾げれば、鏡に映る兄も同じ方向に頭をもたげる。その動作は自分がしているせいか、いつもの凌牙より可愛らしく、思わず笑ってしまう。でも、こんなことをしている場合でもないわ。早く着替えて、凌牙の様子を見に……

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」

瞬間、雄叫びにも似た声が耳を劈く。案外、彼は突然のアクシデントに弱かったようだ。とりあえず、私の声で騒ぐのは止めて欲しい。ノックもせずに扉をバンっと開けた「璃緒」を見て、「凌牙」は溜息をついた。

「とりあえず落ち着いて、ええと……璃緒?」

「俺は凌牙だ!」

「そんなこと分かっているわ。その様子だと何でこうなったか、貴方も分からないようね」

私の言葉に、フンと「璃緒」はソッポを向いた。自暴自棄といえ、その態度は少し苛つくわよ。それに私は、そんな風に腕を組んで鼻を鳴らすような可愛くない女じゃないわ。

「お前だってその話し方やめろ」

「あら、どうして考えてることが分かったの?流石、私の『妹』ね」

「うるせえ!」

ギャンギャンと吠えても、璃緒の姿ではいつものような凄みもない。あら、意外とこれ愉しいかもしれないわね。

「幸い、今日は学校も休みよ。ゆっくり……そう、ゆっくり、考えてるうちに戻るわよ。凌牙、落ち着いて」

「そんな笑顔で言うなっつうか、お前、戻る気あるのか?……っち、まあいい。とりあえず今日はWとデュエルの予定だから、へますんじゃねえぞ」

「お待ちなさい。貴方はどこへ行くつもり?」

不自然に話を切り背を向けた、凌牙の襟首をグイと掴む。

「……部屋に決まってんだろ」

「私も今日は小鳥とのお茶のお約束があります」

「……急病だ。女子会なんか行けるかよ」

「では、デュエルも休んでよろしいのですか?」

「アイツとの勝負で休むのは癪だ!絶対に行け!」

身体を捻るようにして掴んでいた手は離され、「璃緒」はサッサと部屋を出て行った。貴方は、外に出て戻る手立てを探さなくて良いのですか?それとも女の身体がそんなに嫌なのですか?

「全く……子供ですわね」

思春期真っ盛りの兄を残し、私はWとの約束の場所へと向かった。
そういえば、男の友情とはどういうものなのでしょう?

「よお、遅かったじゃねえか、凌牙!」

約束の10分前に着いたというのに、すでに準備万端のWがそこにいた。一体、いつから待っていたというのでしょう。血液型はA型なのかしら?それとも暗黙の了解で30分前習合だというの?2人とも天邪鬼というか、バk……いえ、何でもありませんわ。

「……すまん」

選択肢A【とりあえず怒っているようなので、漢らしく潔い謝罪をしてみる】

「……いや……ず、随分弱気な態度じゃねえか!そんなんで俺とのデュエルに勝てると思ってんのか?」

【相手は狼狽えている】好感度が下がってしまった!

「いや……」

何ということでしょう。私としたことが返答を間違えてしまったようですわ!
そうなると、困りましたわね……ただデュエルをすれば良いだけ、相手も知人だから問題ないと思っていましたのに……何なんですの、この男は。推測すると凌牙はこの理不尽極まりない畳掛けに対し、いつもは強気な返答をするらしい。これはまるで子供の喧嘩……

「いや、違う……」

「は?何が違うんだよ」

彼らだってもう大人の一歩手前という年齢。これもただの言い争いではないはず。そういえばこの前、小鳥に借りた本でこういう少年たちの物語がありましたわ。互いに言いがかりをつけ合うことを愛情表現とする……確か「ケンカップル」と定義される関係の2人。

「おーい、凌牙?」

あの本も男同士でしたし……こういう関係は男同士特有のコミュニケーション、そう「漢の友情」の在り方に違いない!

「おい、無視すんなよ……つか大丈夫か?」

だとしたら、次の返答はこれね。

「凌g……」

「何だよW、さっきから俺のことばっか呼んで……」

「お前こそ何だよ、急に微笑みやがって。怖ぇよ」

「かまってほしかったのか?」

「なッ……」

スッとWとの距離を詰める。やはりね、思った通りだわ。Wもあの本の美少年と同じ反応をしている。驚きを含むやや引きつった笑み、そして期待を含み仄かに高揚した顔。

「こんな風に真っ赤にして……」

「おい、お前……」

あら、壁が無いわ。「ドン」が出来ないじゃない。仕方ないので、私はWの頬に手を添える。瞬間、朱を帯びていた顔がサッと青ざめたようにも見えた。きっと気のせいね。彼の反応が微妙に悪いのも「ツンデレ」だから仕方のないこと。

「ねえ、何して欲しい?」

「……あの、り、凌牙さん?とりあえず殴っていいか?それかお前、何か悪いもん食ったろ?」

「素直じゃねえな……そういうところも可愛いけどよ」

ピキ、空気が割れるような音がした。あら案の定、大人しくなったわ。こういう「ツン」キャラは「可愛い」、「愛してる」に弱いって、小鳥は何度も熱を込めて言ってたものね。ありがとう、小鳥。今、そのアドバイスは役にたってるわ。

「愛してる……」

私はそのままゆっくりとWに顔を近づけ……

「何やってんだ!璃緒ぉおおおおおおおおおおおおお!」

スパーンと晴天に響く切れの良い音、続く「璃緒」の怒声と共に私の意識は薄れていった。

「俺自身を殴ったようで気分悪ぃ。まあ、璃緒の身体を殴るよりはましだけどな……っておい、何でW、おめぇも気ぃ失ってんだよ!おい!おーい!」

***
翌日。

「結局、元に戻りましたわね」

「何で入れ替わったかは謎だけどな」

「そういえば前日、小鳥さんからいただいたケーキ食べましたわね、2人で」

「「……」」

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