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□rain
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ひたひたと伝わって、俺を侵食していくのは、誰の温もりだろう。
誰の暖かさだろう。




鮮血に溺れ、人肌すら感じられなくなってきた。



――「CRIST」――



「神様…・・神、さま・・」


声がする。
俺の最大に愛する人。

泣いている。
声をすすりあげて、上擦った声で、泣いて、俺の名前を呼びつづけている。


「日番谷君を・・連れて行かないで、連れて行かないで、嫌だ、嫌、・・・・嫌あ・・…!!」




耳元でギャンギャン喚くな。
耳障りだ。

そう言おうと思っても、口が開こうとしない。声も、出ない。


五月蝿いと感じられたその声も、しだいに遠のいていく。
耳の奥のそのまた奥で、ごわんごわんと、形も残さないで消えていく。



(「雛森」)




そう言いたい。
目を開けて、お前の泣き顔に手でも触れて、宥めてやりたい。
愛してやりたい。この手で。
この身体で、この声でお前を呼んで、抱きしめて――




うっすらとだけ、見えた視界の中。
とりあえず最初に映ったのは、リアルな鮮血を目立たせる、深紅色。
「俺」という体の中から、ドクドクと溢れ出し、とまらない。
降り頻る雨でさえ、その鮮血を濁せないでいる。


ああ、思い出した。
俺は十番隊の仲間を、松本を助けようとして。
隊長としての意地を張っていたんだ。



いや、でもいい。
これでいいんだ。
自らの死を恐れて仲間を死なせるくらいなら、
全部まとめて、俺が死んだ方が、良い。よっぽど良いだろう。

思う様に動かない首をギシギシと音が成る程骨が軋む中で動かし、
やっとの事で周りに目をやる。

十番隊の仲間達、松本が、救護隊と連携を組んでせわしなく動いてる。
幸い大きな怪我もなさそうだ。


良かった。


ほっとした途端、意識が一気に遠のいていく感じがした。
もう目に何も映らない。誰の声も、聞こえない。


「・・…くん・・・・・・」

ぼんやりと響く誰かの声。
何て言ってるんだろう。そもそも、俺に向けられた言葉なのかさえ、分からなくて。
ああ、・・・さようなら。
きっともう俺は、死んでしまうんだ。
ここで隊長として働いて、仲間を守ると誓った以上、死なんて、常に隣り合わせだったはずだ。
最初から死んでいたのと、変わらない。
最初からいなかったと思ってくれれば、それで――・・

「日番谷君!!!!!!!!」


涙声で叫んだその声。


「神様、神様、つれていかないで!!!」


雛森の持つ全ての声を、出しきっても。


「日番谷君をつれていかないで!!どこにもつれていかないで!!」


いとも簡単に、雨に掻き消されていく。


「仲間を守ろうとしただけなのにどうして!!・・・・どうして連れて行くの・・」


この声は届く?
聞こえてる?

「行かないで、・・・・行かないで、行かないで・・・・・・・・!!」





眉間に皺を寄せながらも、確かに輝きを持っていた翡翠の目は、
今はもう、雨に打たれても瞬きの1つもせずにただ、虚ろに揺らめいて、虚空を泳ぐだけ。
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