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□第1話「闇の魅虎」
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19世紀、英国はヴィクトリア女王が支配していた。貴族たちが毎晩パーティーを行い、庶民は活気と暗雲を繰り返しながら暮らす。そんな中でも事件は起こる。殺人、強盗、誘拐…凶悪事件は後を絶たない。それでも人々が生きているのは常に希望を持っているからだ。英国の中のとあるバー。そこから聞こえる鈴のような歌声は男たちを魅了する。女優、ダン・エヴリコットのものである。24歳にして世界的な女優。英国人には珍しい黒髪と白い肌、そして気の強そうな紫の瞳。

「今日も美しかったよ、エヴリコットさん」
「ありがとうございますMr.ヨルデ」

顔なじみの客に挨拶して回るダン。彼女のファンの多くが上流貴族の男性である。しかも半分が中高年、もう半分が若者。ダン・エヴリコットのプロフィールデータはあまり知られていない。国籍、年齢、身長、体重は公開されているものの、謎が多い。それがまた彼女の魅力を引き立たせているのだろうが。…そしてそのファンの中にとある男がいた。ロンドン警察(スコットランドヤード)の刑事、ギルバート・アイアンズである。

「はぁー…きれいだなダンさんー…」

彼は一年前からダンのファン。以前ある事件を捜査していた時に偶然ダンの舞台を見に行くことがあった。そこで一目惚れに近い感情を覚えたのだった。

(いつか本当に話せたらいいなぁ)

そんな願いを密かに秘めているギルバート。ちょうどその時、表通りで悲鳴が聞こえた。

「きゃぁあぁ!!!」
「殺人だーっ!!!」
(殺人…!?)

刑事の心が騒ぐ。ギルバートが現場に行くと多くの人々。そして倒れている男性。月明かりが死体を照らしていた。

「下がって!警察です!」

男は見たところ貴族だ。刃物で斬られた痕がある。

「……誰が……」

















































































その頃。バーの裏でダンは帰宅の準備をしていた。真黒なコートをはおる彼女。白い肌が月夜に映える。

「おーおー、月夜に輝く美女ってやつかねぇ?」

闇に響いた若い男の声。裏路地に三人の男の影。

「…さっき表通りで殺人があった。アレはあなたたちの仕業じゃないわよね?」
「あんな表通りで殺せるか。我らは闇でしか殺さぬのを知っておろう?」
「そうね聞いただけ」

仮面の男がそう言った。三人の男のうち、はじめに話したのは若者。そして先ほどの仮面の男、そして大柄の男。どれも只者に見えない。…大女優と関係があるとは思えないような、そんな連中。………表向き、には。

「今夜は無理だな、さっきの事件で警察がうろついている」
「全く、お父様に怒られちゃうわ」

ダンは帽子を深めに被り、ルージュの塗られた唇が弧を描いた。そう、女優の顔は表の顔。

「…とりあえず、今夜はおとなしくしておいた方がいいみたい……ね」


























――英国裏世界一の殺し屋集団、ノアの番人――







































「…ええ、…ん。わかってる、明後日には帰るから…………平気よ、大丈夫。じゃあまた」

イーストエンド街のとある一室。そこにダン達四人はいた。ダンが電話で話している。電話の相手は彼女の夫。心配症でダンを誰よりも愛する彼は一日に一回必ず電話をかけてくる。

「相変わらずラブラブだな、ダン」
「そういうあなたも早くあの子落としなさい」
「グサッ…そういうこと言わないでよ」

――『ノアの番人』チェーン・レイニース。緑がかった黒い長髪を一つにまとめ、常に飄々としている若者。根っからの女好きであるが、刃物の扱いはなかなかのもの。

「それにしても今夜のあの殺し…誰がやったのだろうな?」

――『ノアの番人』アルテ・ローレンス。日本出身で異形な仮面をつける謎めいた男。刀を使い、かつて日本で人斬りとして知られていた。

「さあね、でも今夜私たちがあの男を殺すのを知っていたのか…偶然か」
「別の同業者か?オレ達と同じように雇われて依頼されたのかもしれん」

――『ノアの番人』カルメン・ブラック。元はポーランドの軍人で階級は中佐だった大男で怪力とハンマーを扱う。

…この殺し屋組織、今夜何者かに殺害された貴族の男を本当は殺すはずだったのだ。それが見知らぬ誰かに殺された。…そのことで議論を続けている。プロの殺し屋として、獲物を奪われるのは何よりもの屈辱。その犯人を見つけなくてはいけない。

「しっかも大通りだろー?素人かね」
「いや、こうとも考えられる。大通りで殺害するにはうまく身を隠すか、周囲に溶け込む技術がいる。相当の手練かもしれぬ」

チェーンとアルテの考察は真逆だがどちらともとれる。ダンは紅茶を飲みながら黙って考え込んでいる。

「……犯人がもし。私たちの敵ならきっとまた私たちの獲物を奪いに来るわよ」

囮を使うのも悪くない。きっとそいつは来るわよ。と、ダンはクスクス笑った。

「ぜってーブッ殺す」
「チェーン、汚く殺るなよ」
「……さて次はどう動く?」

ダンがティーカップの中にポチャン、と砂糖を落とした。

――『ノアの番人』ボス、ダン・ミッドナイト、表向きは女優ダン・エヴリコット。あらゆる銃の名手で四人の中で最も高い戦闘能力を持つ。




































「さぁ、いつ動くのかしら?」


闇の魅虎
(はじまる、裏世界の道)



■あとがき
オリジナルファンタジーサスペンス?な物語開始。サイトに以前から来られている方はおなじみノアの番人が主役になります!元はD.Gray-manの夢小説から始まった壮大な物語をついにオリジナルストーリーとして連載します。D.Gray-manを知らない方でも興味を持っていただけたら幸いです。

2009/1/22


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