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□百花繚乱姫君
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「ていっ」

中庭で一人、木刀を振るうのは若い娘である。可憐な容姿に大きな瞳。彼女は奥州筆頭、伊達政宗の愛妻である愛姫(めごひめ)。彼女は姫である立場ながら戦場にて武器を振るい、主人を手助けするのだ。そんな愛姫を見ているのは夫、伊達政宗である。

「Hi,愛!ちょいと振りが大きいな、もっと小さく、隙を見せないようにするんだぜ」
「政宗様…。はい、頑張りまする」

花のように微笑む愛。政宗は胸が高鳴るのを感じて愛に近づいてその小さな体を後ろから抱き締めるように木刀を握ってやる。

「いいか?こうして握って…軽く振るんだ」
「は、はい………あの、政宗様。近くありませんか…?」
「What(何だと)?聞こえねぇなぁ」

ぎゅ、ともっと抱きしめる政宗。愛は顔を真っ赤にしながら背中に感じる温もりに身を任せる。

「愛…無理に戦わなくていいんだぜ?俺らはいつ死ぬかもわかんねぇ。愛みてぇな…」
「姫に戦は無理ですか?」
「……princess(プリンセス)ってのは…城でprince(プリンス)の帰りを待ってるってのが…まあ普通なんだが」

くる、と愛は振り返って政宗を見つめた。

「愛は独眼竜の妻ですわ。おとなしく待っているなんて似合わないでしょう?」



たまに大人びた表情を見せる愛に政宗は言い返すことができない。愛を戦場に連れていくのは危険だが、戦場で勇敢に戦う愛は美しい。それに自分のことを心配しているのも痛いほどわかる。

「愛…」
「政宗様をお守りするのは私。他の誰でもないのです。いつか政宗様が天下を取る姿……それをずっと思い抱いて私は戦うのです」
「…Thank you,愛…」
「みーとぅー、です」

二人が唇を重ねようとした瞬間……











「政宗様!こちらにおられましたかっ!!!」
「………………小十郎」

ちっ、と舌打ちをする政宗。廊下から走ってやって来たのは政宗の腹心、片倉小十郎だ。愛はまさか、と思って小十郎に尋ねる。

「小十郎様!もしや政宗様、またお仕事を抜け出してきたんですか!?」
「はい。その通りでございます。政宗様!我らの苦労もわかってくだされ!」
「小十郎、俺と愛のlovememory(愛の思い出)を邪魔するな!そういうの、Obstructive insect(お邪魔虫)って言うんだぜ」

伊達の三傑と呼ばれる片倉小十郎、伊達成実(政宗の従兄弟)、鬼庭綱元(頭脳明晰伊達軍幹部)らが政宗が放り出した仕事を片付けているらしい。政宗は愛の鍛錬を見に行くため(というかいちゃつくため)に、こっそり逃げ出してきたというのだ。

「政宗様!今すぐお戻りくださいませ」
「な、愛……俺はお前のために…」
「愛を思うならば全てを片付けてきてからにしてください。私は…・…




お仕事を頑張っていらっしゃる政宗様も好きですよ」
「……よし小十郎、行くぞ」

愛の笑顔を見るなり政宗はさっさと部屋へと向かっていった。やれやれ、とため息をつく小十郎に愛はクスクスと笑う。

「お手を煩わせて申し訳ありませんでした、愛姫様」
「いいのですよ、小十郎様。あの方が頑張ってくだされば私は良いのです」
「…あのお方は愛姫様の一言と笑顔があれば何でもなさりますから」

二人苦笑いして、小十郎は一礼してから政宗の後を追った。































ようやく仕事が終わったのは夕暮れ時。政宗は背伸びをしてすぐさま愛のもとへ向かう。自室にて愛は側近の喜多と談笑していた。

「あ、政宗様。お疲れ様でした」
「終わったのですか?」
「ああ、やっとな。喜多、あっち行ってろ」
「はいはい」

喜多は政宗の乳母であり、小十郎の実姉である。彼女の怒りは政宗も小十郎も逆らえないとか。

「あ、小十郎に聞きましたけど仕事抜け出して愛姫様に会いに行ったんですって?」
「……あーあー、うるさい姉弟だ。少しは黙れねぇのか」

笑いながら喜多は部屋を出ていった。ハァ、とため息をついて政宗は愛の横に座り込む。

「ったく、あの姉と弟はどうしたもんだ。どっちも口うるさい」
「それほど政宗様をお慕いしているのですよ」
「………」

確かに、片倉姉弟は私生活でも戦場でも素晴らしい働きをする。他国の軍からは竜の目を持つ姉弟として名も知れているとのこと。それも全て政宗のためだ。

「まあ……な。…愛は俺を慕っているか?」
「はい。お慕いしております」
「…ホントか?」

ニヤリ、と笑って愛にそっと近づく。愛はドキ、と胸が高鳴るのを感じて政宗を見つめる。

「俺は家臣と民の命を背負っている。……だがそれは稀に重すぎてどうしようもならなくなる時がある」
「…政宗様」
「………俺は散々な目に遭ってきた」

右目を無くし、そのせいで愛する母に忌み嫌われた。その母は代わりに弟を溺愛してしまった。それらは伊達家に生まれた因果なのか。俯いた政宗の頬に触れたのは愛の優しい手。

「政宗様、私が共に背負いますわ。政宗様が求めているのは……愛情でしょう?」
「愛」
「天下を取って……誰かに愛されたい。…私を頼ってください。私はあなた様のお役に立てるならこの命さえ捨ててもかまいませんの」
「……ハードな人生になるぞ」
「私は伊達家の嫁です。……覚悟はついておりますの」

強い眼差し。その眼は伊達家にふさわしい。

(竜の目だ)

と、政宗は思った。決意を固めた女の目は何よりも輝いて見える。それがまだ十代後半の娘だとしても―――……。

「ああ、…共に天下というspecialevent(スペシャルイベント)に向かって進むぜ、愛」
「Yes!」

また花のような笑顔が咲いた。



百花繚乱姫君
(竜についていきます)





■あとがき
政愛ひとつめ。愛姫は可愛らしいイメージの女の子。母に嫌われた政宗を初めて愛してくれた人。


2009/4/23


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