C

□ともだち
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――市、泣かないで。艶はずっと市のものだから。
――ずっと?…艶は市のものなの?
――ええ、艶は…市が大好き。絶対、殺さない。
――……市も、艶のこと大好き。
















「あ…」

またあの夢…。もう何年前になるのかな…?
艶が松永様のもとに嫁ぐ日。市と艶はそう言って別れた…。艶の笑顔を見たのはあれが最後だった………艶、今笑ってるの?

「どうした、市」
「長政様………艶のこと考えて…いたの…」

あの日から二年後に市もお嫁に行った…。長政様は優しい人。…にいさまとはまるで逆の…光溢れるひと。…艶は嫁いだ先で…市みたいに優しくしてもらっているのかな…?

「梟雄の猫か…市。お前も早く彼女は忘れるべきだ」
「長政様……艶を殺すの…?」
「私自らが手を下すことはしない。ただ、彼女が問題だ。あの梟雄、松永久秀の悪行は許せん!いずれ刃を交えることになるだろう。だとすれば…あの猫も市、お前と戦うことになる」
「…艶と…戦う…」
「お前も戦に出るなら…答えはわかっているはず」

…そうね…わかりきっているわ…。艶と戦えば…どちらかが死ぬことになる。それに…もし松永様が死んだら艶はきっと後を追うだろうから…。

「市…」
「わかっていたの…所詮市と艶は繋がらない糸で結ばれていたから…」

敵国の姫同士。そんなことわかっていたのに……全部…市のせいね…。生まれて初めての同年代のともだち。…市にとって…最初で最後……だからせめて…最期は市の手で葬らせて…?

「市は艶が大好き…大好きで…大好きだから……市が殺してあげるの」

…艶も、そう思ってくれるよね?ああ、どうして今になって涙を流してしまうの?市はにいさまの妹として生まれたときから涙なんか枯れたはずなのに。

「市っ…無理をするな…」
「…長政様」
「お前は艶殿を殺したくないのだ!お前にとって大事なんだろう!?」
「……大切」

大切?……そう呼ぶのかはよくわからないの。ただ怖くてたまらないの…艶を失いたくないって叫ぶ心と、艶を殺したいっていう気持ち。…にいさまと同じ魔の血。

「まだ松永久秀とは戦わない…まだ時間はある、市…今の時間を大切にしろ」
「…長政様…」

優しいひと…。市を気遣ってくれるの…?

「明日…艶に手紙を書いていい…?」
「…構わぬっ」
「ありがとう…長政様…」
「あ、あまり敵と親しすぎてもならぬぞっ」
「うん…市…頑張る…」


艶…市は今、笑えてる。久しぶりに…笑えた。艶も…笑ってるかな?…市、艶に会いたいよ。…武器も鎧も無しで…また桜を見に行こう?



ともだち
(市の、たったひとりの)





■あとがき
大好きな浅井夫婦を出してみました(笑)


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