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□ハウルの動く城
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「ソフィー!」

今日は日曜日で、花屋もお休みのソフィーは掃除をしていると勢いよく開かれた扉の方に目をむけた。

「あら、おかえりなさい。どうしたの、あなた今日はずいぶんと早かったわねぇ。」

箒(ほうき)を片手にソフィーが玄関に立つ人に向けて声をかけると、その人は「やっとまとまった休暇がとれたんだよ!」と嬉しそうにソフィーに近づいた。

ハウルは戦争が終わってからというもの、王宮に呼ばれ戦争の後始末に駆けずりまわされており深夜に帰って来たと思ったら朝はあわただしくお城に出仕するという日々が続いていた。

「あら素敵!じゃあ、お天気も良い事だし久しぶりにピクニックでもしましょうか。」

「わぁ、やったー!じゃあ僕荷物とってくる!」

一緒に掃除をしていたマルクルは手にしていた箒もほっぽりだして階段を駆け上がっていってしまった。

そんな様子を見てまったく…とおもいつつ自分もウキウキしているのを表面には出さないようにして手早く片づけてバスケットに材料を詰め始めた。

「さて、じゃあ僕はテーブルたちを移動させてくるよ。」
「ありがとう、気をつけてね。」

気をつけてって、こんなの魔法を使って動かすのだからどうって事ないのに…。
なんて考えながらも、そうやって言ってくれるのは少なくとも自分の事を気にかけてくれているからと知っているからつい嬉しくなってしまう。
そんな事を考えているうちに、みんながテーブルにつきソフィーが全員にパンを切り分け 皿にサラダなどを盛り付けていった。

「では、諸君うまし糧!」
ハウルの声にソフィー達も続いた。

昼食のあとソフィーはヒンと戯れるマルクルを視界の隅にとらえつつ生い茂る草達の上に寝転がり空を眺めた。
しばらくするとそばに誰かが座った気配がした。
「ハウル?」

「ん?」

呼びかけてはみたものの特にしゃべる事もなくそっと隣の人物を見ると、降り注ぐ日差しに目を細めながらあまりにも優しく笑うものだからどうでも良くなって結局口をつぐんだ。

「……髪少し伸びたね」

ハウルは、やわらかくひかる艶やかなソフィーの髪の感触を楽しむようにして言った。

「そうかしら?…でも、そうね。そうかもしれないわ。」
不思議な感覚だ。戦火の中ボロボロの身体で戦うハウルを必死で探して追いかけたのはもう半年近く前の事だったというのに昨日の事のように思い出される。
すると突然視界が陰ったかと思いきや、抱きしめられているのに気付いた。

「ソフィー…僕はここに居るし、どこにも居なくならないよ。」

彼女が時々、ふとした一瞬泣きそうなとても悲しげな表情をする事には気付いていた。それが自分のせいである事も…。けれど、彼女は泣かない。いっそ泣いてくれればいいのにと思うのに、彼女は毎日どんなに遅くに帰ってきても自分を迎え送りだしてくれる。

「ねぇソフィー、僕は何も見てないし聞いてない。だから、そろそろ肩の力を抜いてもいいんじゃないかな。だれも、君を責めたりなんかしないよ。」

彼女の身体が強張るのを感じた。けれど、ゆるゆると力が抜けていきそのうちかすかな嗚咽がもれたのを聞いた。

「…っく、う………っふ…う………」

しばらくすると彼女は何度も謝りだした。

「ごめ…ごめんなさい、疑ってたわけじゃいの だけどあなたに…ひっく、またムチャをさせてない…か、ちゃんっと……ここに戻ってきてくれるか…っふ、居なくなってしまわないか不安で、信じてるのに……………ごめっなさ…ぃ」

「ソフィー…良く聞いて。僕はね、必要があればムチャをするかもしれないしこれからも傷を負わないでいられるかなんて約束は出来ない。」

ソフィーを安心させたいのに僕は酷な事を言う。再びソフィーの身体が強張るのを感じたが、僕は続けた。

「けれど、それはソフィーのせいって訳じゃない。ソフィーが居て、マルクルがいて皆がいる。この大切な場所を、家族を守りたいから、僕がそうしたいからするんだ。ホントは国なんてどうでも良いんだよ。そんな不忠義者なんだよ、僕は。だからね、ソフィーはそんな気に病む必要もないんだよ。僕はここに絶対帰ってくるよ。皆がいるこの家以外に行きたい所なんてどこにも無いんだもの!」

そっと、彼女に伝わるようにとゆっくりそう言い彼女が泣きつかれて眠るまで僕は髪を手で梳きながら抱きしめていた。



目が覚めるとソフィーはどうやら自分がベッドの上に居るようだと理解した。ぼんやりとそんな事を思いつつ昨日、自分がしてしまった事を思い出して顔を赤くさせたり青くさせたりしていると、不意に自分の身体に上手く力が入らない事に気がついた。…というより、動きにくい。さらに言えば重い。
ここでやっと、頭がはっきりしてきたのか周りを良く見る余裕ができた。
そして気がついた。ここが自分の部屋で無くハウルの部屋であり、身体が動かしにくいにはハウルがしっかりと自分を抱いていて離さないからである事を…

どうにか腕からのがれようとしたが、寝ているくせに全然離れない。ソフィーは諦めて、久しぶりにハウルをまっすぐに見つめた。
昨日までは、彼を信じる事が出来てない自分がどこか後ろめたくてなんとなく目を合わせる事が出来なかったが、こうして見てみると不思議と愛おしいという感情があふれてくるのを感じた。
「ハウル…」

囁くように呼びかけ、彼が起きない事を確認すると思いきって伝えてみた。

「ハウル…好きよ。頼りないあなたも臆病なあなたも私達のために戦ってくれたあなたも…。」

あなたは自分がしたいからするんだって言ったわよね。けど、それも私達を思ってくれての行動だって位私にも分っているわ。ごめんなさい、だけど……

「ありがとう、大好きよ。愛しているわ。」



「……まったく、どうせならこんな寝ている隙に言わないでちゃんと言ってくれればいいのに。」

自分が寝ていると思い込んでいた彼女の告白はきっちり聞いていた。頬を真っ赤に染めて逃げるように布団の中に潜ったソフィーが再び眠ったのを感じてから、ハウルもまた眠るソフィーに

「僕も愛しているよ。」

と、今は夢の中にいる彼女を起こさないように頬にキスをおとした。

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