story
□脳裏の濃紺
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光を跳ねかえすアスファルト
煙で霞む視界
その向こうにいる君。
「ふたりぼっちで花火とか、さびしくない?」
そんなこれっぽっちも思っていないことを口にする。
「全然。てゆうかお前がしたいっていったんだろ」
学校からの帰り道に言った。
「夏だし花火したいな」って
突拍子もなく。
ただ思いたったまま発した言葉を、君はしっかりひろってくれて
ふらっと家に来たと思ったら、左手に花火をもっていた。
ふたりでするには、量が多すぎるやつを。
花火の音、香り、汗ばんだ肌、べたつく髪。
君と視線が交わると同時に
跳ねる心臓、上がる体温
夏の暑さのせいだけじゃない
私は、心臓をおさえながら、ただただ思っていた。
この日、この時は、ずっと私のなかで、残りつづけると
濃紺の夏の夜は、いつまでも美しく、脳裏に焼き付いている。