ねがいのお店で
□に
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コンタクトをとれたからといって、彼が私に懐いたわけではないので警戒される状態はあんまり変わらない。
「………なにをしている」
「晩御飯作ってんですよー、と」
ただ、ふいに声をかけてくるようになった。
しげしげと私や私の行動を見るようになった。
まだ寂しそうに鳴きはするけれど、泣きはしなくなった。
彼の名前が佐吉という字で書くことを知った。
「…あれ、そういえば佐吉は全く食べないよね」
平気なんだろうか?やっぱり見た目幽霊モドキだからいらない感じ?
「………ここにきてから、すかない…」
自身の腹を撫でながらそういう佐吉の姿は、はっきり言って現代日本に近い世界の此処では珍しい着物だ。
………私はバイトの雇用主とかでそこまで不思議ではないけれど。
彼も何かしらのキャラクターなんだろうか。
ナルト世界で逆トリすら体験した私はそうであっても驚かないよ。
…ただ、何のキャラクターかわからないから迂闊な行動がとれないのが難点だけども…。
「へー……のわりには超見てるね?食べたいの?」
ああ、そういえば声をかける前から食事中ずっと見てたもんね。やっぱり興味あるのか。
「っ……いらん!」
聞き方が悪かったのか、ぷいっと体ごと反転させてしまった佐吉。しかしちら…と見てくる様は、気付かれないとでも思ってるんだろうか?
うん、見た目まんまに子供だなぁ。
若干ほのぼのした気分で一掬いしたスプーンを差し出しお決まりの言葉を吐く。
「あーん」
「!…………」
しかし佐吉は音もなく近づいた私に吃驚し、そしてそれから目の前に突き出されたスプーンを見つめるばかりで口を開けるそぶりもない。
……うん?ああ、なるほど毒味か。佐助の時もやったなぁ。
「…ん、我ながら美味しい」
食べれるものだよ、というアピールをしてからもう一掬いしてスプーンを近づける。
そこでふと、ナチュラルに食べられるものだと思ってスプーンを突き出しているがそもそも半透明の幽霊モドキである佐吉には食べられないんじゃ?という考えが湧く。
何てったって彼と私は身体的接触が不可なのを、初対面の時襲い掛かってきた佐吉が証明している。
ちなみにその時突っ込んできた佐吉は私を通り抜けてすっころんだ。
――ぱくり
そんな私の考えをよそにもぐもぐと無言で咀嚼する佐吉。
噛むのに夢中なその体に空いた片手を伸ばすも通り抜ける。
………身体的接触はできないけど食べることは可能ってどういうこと?
またひとつ疑問が増したものの一旦は置いておくとして。
「……美味しい?」
「………、……………………まずくはない」
あ、こいつツンデレなんだな。
ほのかに頬を染めるねこを、ムツゴ〇ウさん並にわしゃりたくなった夕飯時。