下っ端街道記

□ぽけもん
1ページ/1ページ

※クロバットとクズ主のはなし




ゴルバットがクロバットに進化する条件は持ち主に懐いていることだが、大抵自分でゲットしない上に与えられたポケモンで、しかも大切にしちゃいないロケット団員の手持ちはよくてゴルバット、ほとんどはズバットだ。


「なんでお前のはクロバットに進化したんだろうなぁ…」


大切になんかしてねーじゃん?お前。


そんな中先輩を差し置いて手持ちにクロバットがいる俺はよく絡まれる。
確かに大切に育てた覚えはないが大きなお世話である。


「知らねッス」

「…ふーん、……お前生意気」


バキッとなかなかイイ音を響かせた右頬は腫れんだろうな、面倒くさい。そう頭の片隅で考えながら受け身なんて大層なものとれずに豪快な音をたてて転倒。
殴った張本人なんて憂さ晴らしできたもんだからもう部屋にはいない。


『主様っ、大丈夫ですか!!』


ポンッと軽い音をさせて勝手に出てきた原因。



ロケット団に入って戦闘の道具として渡されたズバット。
その認識が全く変わってない俺と、なんでかボロボロに扱われても嬉しそうなコイツ。


お前マゾなの、冗談でなく聞いた俺に貴方限定で、と答えた大馬鹿野郎。


きっとコイツが俺に懐いたのはポケモンの声がわかるっていう特異性のせい。
じゃなきゃマジでコイツは可笑しい。


「…どっかの地方でよぉ、ポケモンの声がわかる女がいるんだって」


お前、ソイツんとこ行けば?



心配する声や態度なんか無視して告げる。

ジンジンする右頬を冷たい床にひっつけて、倒れたまんまの体勢で宙に浮かぶ紫色のアイツを目だけで見上げる。

なんだか見た目だけだと随分無様ってか、まあ無様なんだけど。



もうさ、このコンプレックスで好かれてるとか考えるだけでうぜーんだよ。


ポケモンの声が聞けるのなんか当たり前だと思ってたクソ純粋なガキの頃、それが普通じゃない可笑しいってこと痛いほど知ったし?
最初こそ持て囃されても段々不気味がるわ嘘吐き呼ばわりされるわ、ガキって集団になればなるほど面倒くさいイキモンよ。
親も信じちゃくれねーし、妄想扱いされるわ散々だ。


だからこそコンプレックス化したこの能力でお前なんぞに好かれようとあの不快な記憶は消えねーしコレがイイ能力とも思えねーわけ。


『……別に、私は声を理解してくれるから主様のところにいるわけではありません』


もう、ヤメロ。


『ましてやあの変態なリザードンと同じような理由でもありません』


…ヤメロ。


『貴方様だからこそ、御側にいたいのです』


その好きですって目、ヤメロ。


『臆病で卑怯で、流される人生に楽を感じて足掻くことを止めてしまった』



……、…………。


『そんな愚かな貴方が愛しくて仕方ないのです』


……っ………………。
………………。
……………。

…あー……、あーっ!



「……何語っちゃってんの、しかも変な解釈してくれてさあ。卑怯者で汚くて愚者ってのは認めるけど臆病?なにそれ馬鹿にしてん…」


ムクリと起き上がりながら鬱陶しい気持ちをうまく逃がせなくて雑に髪をかきあげる。

(……ちっ)

けど纏わりつく髪がさらに鬱陶しかった。



『大好きなのです、主様』

だけどそれよりも。

「……あっそ、俺はお前なんかどーでもいいし」



幸せそうな顔してさらに言い募るアイツが一番鬱陶しかった。






余談だけど、俺をぶん殴った奴は闇討ちを喰らって全治云ヶ月の重体らしい。よくあることだ。

……犯人はわかってるけど止める気はない。


 
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ