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□それが夢だとしたら
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「あんたは卑怯な人間だ。
籠から出れないと嘆きつつ、実は出れる事を知っている。
その方法が大きな犠牲を払うものだと知って、決断を下せずにいるのだ。
籠を塞いでいる鍵のせいにして、自分で自分の未来を決めることを先伸ばしにしている。
自分で自分を変えることを怖がり、籠の中でもいいのだと甘んじている」
誰の言葉だろう?
もう覚えていない。
ただ、自分に向けて発せられたものでもないのにやけに胸に残った
そう。そのとおり。
私は変わるのが怖い。
今の状況がどうであれ、変わる事以上に恐ろしいことがあるだろうか。
今に不満を感じてもその為に“変わる”ということがもっと怖い。
だから、いいの。
放っておいて。
さて、ここまでは私 綾崎凪のただの独り言だ。
何か前置きがあった方が良いかと思ったんだ。この、長くて私が好む平穏とはほど遠い物語を語る為には。
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いくら私が怠惰な人間だとしても、取り敢えずなんとかしないといけないのは休み明けに迫ったテストである。
土日は寮の自室にこもって二日間とも勉強漬けだろうな。
学校帰りだというのに気が重い。
待っているものが行っても帰っても勉強だけとは…
こういう時、家事を自分でしなければいけない寮生は大変である。
さて、カレーでも作って数日もたせるか…と思って部屋の扉を開けたところで私の視界は闇に包まれた。
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目を開けると、そこは非日常。
何故、こんなに明るいのか。
だって、学校帰りだったはずなのに。部活もしてきたから6時は回っていたはずだ。10月の6時は暗い。
それと、目の前に見えている土。
何故、外にいるのか。
私は寮の部屋を開けたところだったはず。
…訳が分からない。
取り敢えず、地面に寝転ぶなんて
と思い立ち上がろうとする。
すると、
「総司、斎藤、こっちか
女が倒れていたってーのは」
一人の人の声と、数人の足音。
え?なんで?
この声を私は知っている。
知っているも何も先日乙ゲー好きの友達から「これ大作だから!あんた、歴史好きでしょ!」と渡されたゲームでずっと聞いていた声だ。
ーー薄桜鬼ーーーーー
こちらに走ってくる、想像通りのメンバーを見てその単語が頭によぎる。
カズキヨネさんのあの綺麗な立ち絵そっくりの人物が動いている。
なるほど、私は疲労で倒れたんだな多分。
それでこんな夢を見てるわけか。
そこまでこの作品にはまった覚えはなかったが、夢にまで見るとは…
−−キンッ
という音がして我に帰る。
土方歳三。
彼が私に刀を向けていた。
「てめぇ、ここで何してやがんだ」
見事なまでの三木さんボイス。
よくできた夢だ。
和泉守兼定…とかいっただろうか
目の前にある刀。
なんの気なしに手を伸ばし触れてみる。
夢ならいいだろう。痛みも感じない。
「?!…おい!!おまえ」
「痛っっ――」
血が、でる。
痛い。
手先って神経集まってるから、痛みを感じやすいんだよな…
とかぼんやり考えている私が居た。
夢だと思っていた場所でしっかりと痛みを感じながら。
「…う、そ…でし、ょ?」
流れ続ける血を見ながら、言葉が口からこぼれていった。
そして再び暗転。