本章★ do or die..(長編)★

□THE COUNTERBALANCE
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Counterbalance

「ふう・・・」
シャワーだけだけどすごいさっぱり。髪ボサボサで、顔も泥だらけだった私は、久しぶりに小奇麗になった自分の顔を鏡でまじまじと見た。鏡の中の私は、タワーから飛び降りた所為なのか、見知らぬ土地にいる所為なのか、前よりも垢抜けた顔になっていた。
不安はあるけど、とにかく皆と仲良くなって自分の状況を理解しなきゃ。
とりあえずここがどこなのかは早く把握しなきゃ。
ってか、私普通に応対してたけど、くまが喋るってどういうこと?


がらっ・・・

いきなりドアが開く。
「「・・・・」」
一瞬の間の後、私は「うわぁあああ!」とタオルを引っ掴みながら叫んだ。
「わあああああ!」
と白くまも叫ぶ。
「・・・って何だベポか。」
動物だとわかって安心。って、何で私動物と普通に会話してるんだろ。
「ごめんごめん、着替え持ってきたからこれ使って。」
ありがとう、と受け取るとそれは皆が着ていた白いツナギだった。
おぉ、何か制服みたいだ。何かコスプレみたいでテンションあがる。
「着替え終わったら一番奥の部屋に向かってね」
私はうん、と言いながら初めて着るツナギにうきうきしていた。
下着の替えはさすがに無さそうだから考えなきゃな。
「あれ、ぶっかぶかww」
タグにMサイズって書いてたけど流石にメンズサイズは大きい。
両手足の裾を何重にも折ってみたがダボダボなのが余計に目立つ。
「ま、いっか。とにかく言われた部屋に向かってみよう」

部屋を出ると、窓の外から色とりどりのサンゴ礁と魚たちが、遠く海の上の日光を浴びてキラキラと輝いていた。
いつのまにか海底に潜ってたんだ。潜水艦乗るのなんて初めて。海の中に入ったのも初めてだけど。
ちょっとドキドキする。
窓によそ見をしながら私は奥の扉を叩いた。
「入れ」
重いドアノブを回すと、そこには壁いっぱいの本が目に飛び込んだ。
棚に入りきらない本が無造作に床に置かれている。丸い窓の下には木製のベット、その横には本に埋もれた机があった。そして彼はその机に向かいながら本を読んでいる所だった。
「ロー・・・さん」
「あ?」
彼は振り返りざまにガンを飛ばしてきた。名前呼んだだけなのにそんなに怒らなくてもいいじゃんか。
「・・・さんなんて付けるな。気持ち悪い」
じゃあ何て呼べばいいんだろう。キャプテン、っていうと私も仲間な気がしてテンションあがるけど特に私仲間でもないしな。。
「・・・ロー」
ギリ、とまた睨まれて私は後ずさった。・・・何が正解なのかわからん。
座れと促されたが、イスは一つしかなかったので私は机の横のベットに腰かけた。
「ショーと言ったな。」
「はい。」
この人の目は苦手だ。目つきが悪いせいでもあるかもしれないけど、何でも見透かされそう。
「年は?」
「・・・19」
「何であの島にいた?」
「・・・乗ってた船が難破しました。」
眼光が鋭くなる。早くなる鼓動を必死に抑えながら私は平静を装った。
「どこから来た?」
「・・・日本」
一瞬固まった彼。それはノースかとかサウスかとか聞かれて、私はわけもわからず適当にイーストと答えた。
日本ってたしかイーストだよね。東方見聞録とか言うし。ぁ、でもあれはヨーロッパから見たときだから?
「おい」
思考をめぐらせていると、おもむろに膝に広げていた本を私に見せた。
何かの植物図鑑なのか、いろんな形をした果物が載っていた。
ローは私に本をむけながら、あるピンクと黄色のグラデーションのかかった果物を指さした。
「これ見たことあるか」
ぐるぐるの模様のその果物に目を凝らす。
「・・・・・ある・・・・」
「食った?」
「・・・・・・・・食った。」
言い当てられたことで、半分声が上ずった。
彼は一瞬驚いて
「説明しろ。」
と言い放った。

そう、あれは6歳の時におばあちゃん家に遊びにいったときのこと。
おばあちゃんはとっても山奥に一人で住んでいた。年に一回、夏休みにおばあちゃん家に遊びに行くのが楽しみだった。
一人で山の中で遊んでいた時、木の枝に見たことない果物がなっていた。
6歳の好奇心はパンパない。高い木だろうとよじよじ上ってその不思議な果物をもぎ取った。
そのまま木の上で果物を食した。すごい味がした。
でも食べたこともない味だったのでもう一口、もう一口と、さらには完食してしまった。
ふう、とおなかいっぱいになったので木にもたれかかろうとした時、バランスを崩して高いところから転落した。
「わああああ!」
打ち所がわるく、尖った木の枝が腹に貫通。おまけに固い石に頭を打った。
「ハア・・・ハア・・・」
真っ赤にそまる自分の服。パニックになりながらも激痛が走る腹部に手をやり、枝を無理やり折って、思い切り引き抜いた。
するとどうだろう。傷はあとかたもなく消えたのだ。痛みもだんだん引いてきた。
血まみれになった孫が森から帰ってきたとき、おばあちゃんは本当びっくりしてた。
一部始終話すと、「このことは誰にも言っちゃいけない」って言ってたっけ。


でも結局、“あの事件”がきっかけで皆にばれてしまった。
私を気持ち悪がり、侮蔑の言葉を浴びせた。
父や母さえも私を遠ざけようとし、保護施設に入れられた。
私は必死で笑顔を取り繕い、過去をひた隠しにした。
けど押し寄せたのは孤独という大きな波。
私は死について興味を抱くようになっていた。
嗚呼、もうこんな世界いらない、しんでしまいたいと。

でもしねなかった。

私はローに話ながら、思い出したくない過去が自分の胸を締め付ける感覚を覚えた。
事件の話も自殺願望の話も、初対面のローにはさすがに話す気になれなかった。

「何度傷を負っても治るの。
でも、人は触れない。触れると生気吸いとっちゃって、ミイラになってしまうの。」
私はギュッと拳を握った。


「チユチユの実だ。」


「ちゆちゆ・・・・?」
何だそれ。
「これを食べたもんは、傷をいやす治癒能力が得られる。悪魔の実だ。」
「へぇー・・・・・。
・・・・・何それ。」
呆れた顔のロー。だって知らんもんそんな悪魔の実なんて。新種の果物か何かかな?
彼は私にその実の説明もせずにすぐ隣にある果物に指を動かした。
「オペオペの実」
「おぺおぺ??」
またすごい色と形をしている。
「俺が食った。」
「く、食ったの??wこれを??w」
ブフォと吹き出しながら言ってしまった。禍々しい殺気が彼から放たれた。
「お前も変なもん食ってんだろうが。」
「・・・すんません・・・」
「お前も見ただろう。オペオペの実の能力は空間の中を支配出来る。そのなかのあらゆるものは俺の意思で切り刻める。」
あれか。でも私無傷だったよ。本来はバラバラにされるってこと?
「だが疑問が残った。
俺の能力がお前に効かない。お前の能力も俺の空間の中では効かない。
この事から俺はチユチユの実を連想した。
何故ならこの2つは相反する能力を持っているがゆえ、お互いの力を無力化する。」
なるほど。それで二人とも自分の力が出なかったからパニックになったのね。
ローは刺青の入った人差し指を私に向けた。
「お前はこの実を食ったというが、発揮する能力が違う。」
「え・・・・?」
ローは私の右手に触れようとした。
「いや!」
離すのが遅かった。指先がかすかに触れた。
「・・・っ」
「ごめっ」
ローの指先は火傷をしたように真っ赤になった。
「・・・”ROOM“」
ブォンと薄い膜が二人を包んだ。
ガッとローは私の右手を掴んだ。
「・・・・あれ??」
ローのいうとおり、私は普通にローに手を握られていた。指先がすごく冷たい。低血圧なのかな。
「・・・・矛盾する・・・」
「矛盾ってどういう・・・」
ローの眉間に皺がよった。ローは握った手を離し、自分の口元にやった。そのまま考え込んでしまった。
いやいや、私も混ぜてくださいよ。全然わかんないんですけど。
ヴォン・・・
ローは空間を消した。
私は自分の右手に視線をやった。またじんじんする。痛みじゃないんだけど、人の感触が手に余韻を残していた。
「話は後だ。着いてこい」
ローは本をバタンとしめて立ち上がった。
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