本章★ do or die..(長編)★

□THE HYPNOTIST
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THE HYPOTIST

瞼の向こうで、朝日が光る感覚があった。
もう朝か・・・。
昨日も色々あったけど、夜のことを思い出すと心がきゅんとした。
温かいシーツにくるまれて、もう一回寝ようか、なんて考える。

・・・・・ん?
温かいシーツ??

そういえば昨日夜空を見て、それから、どうしたんだっけ。
寝た?そのまま寝てしまったのか?
「・・・・・・」
急に目をあけるのが怖くなった。
そして温かくてがっちりとしたものに包まれているこの感覚。私のおでこのあたりにじょりじょりとした髭らしきものがあってる。耳の下から微量ながら脈の音が聞こえる。
目がだんだん冴えて、自分の状況を理解しはじめると、急にこめかみあたりから冷や汗がでてきた。


完全に腕枕されながら抱かれている・・・っっ!


お、落ち着け私。
出るな能力・・・・っ!
荒くなりそうな息を深呼吸で整える。
ええい、目を瞑ってても仕方ない。私は思い切って目を開いた。
「〜〜!!!!」
そこにはローの固くて少し薄い胸板があって、私はまた声のない驚きの声をあげて再び目を瞑った。
何で?ナンデ、イッショに、ネテイル?
パニックになりながらも少し顔を上にあげると、ローの寝顔があった。
わ、近いっ。鼻がもう少しであたりそう。
ってかよく見たらここローの部屋だよね。

穏やかな顔して寝てる。
まあ寝てる間でも眉間に皺よってたら怖いけど。
まつ毛長い。
あ、こんなところにホクロがある。
寝てても目の下くまが出てるけど。笑
・・・綺麗な顔・・・。

「わ・・・」
ローの腕が急に動いたかと思うと、私を思い切り抱きしめた。私は再びローの胸の中に埋められた。
私の体は長身のローの腕の中にすっぽり収まってしまって再び身動きが取れなくなってしまった。
「・・・・」
私は意を決してローから離れる準備をすることにした。
ゆっくりと体を反転させて、がっちりと私の首にまかれたローの腕をそーっと剥がす。
ヌルッ・・・
肩から首にかけて生暖かいものに舐められる。そして薄い唇が首に吸い付く。

「ぎゃあああっ」

全身に鳥肌が立った。
「・・・ククッ」
後ろでローが肩を震わせて笑ったのが分った。
「ぎゃあ、って何だ。色気もクソもねえ。」
「お、起きてたの・・・?」
ローは私の腕の下に自分の腕をすべりこませて私を動けなくした。
ああ、と低い声で耳元でささやかれる。
「・・・何で一緒に寝てるの・・・・?」
「ショーが寝るから悪い。お前の寝ているベットに運ぼうとおもったがペンギンが占領しててな。アイツ寝相悪いだろ。仕方なく俺の部屋に運んだ。あと、“荒療治”だ。」
「あ、荒療治?」
「こうすれば嫌でも俺に慣れるだろ?」
確かに寝てる間は力は出ないけど、私が起きたときの事を考えなかったのか?
「現に俺は、俺の能力も使わずともショーに触れてる。
・・・ま、特訓をやめる気はないが。」
ローはまだ眠そうで、欠伸まじりに気だるく言葉を吐いた。
その吐息がくすぐったくて、私はローの腕の中で少し震えた。
「・・・・」
あれ、また寝ようとしている?
私はゆっくりと体を起こそうとしたが、またローに強く抱きしめられた。


「・・・・まだもう少しこうしてろ。」


一瞬私の心臓が跳ね上がった。そ、そういわれましても・・・。
でも背中にあたりるローの体温が心地よくて、私もウトウトしかけたその時・・・。

ドーンッ・・・ドーンッ・・・


遠くの方で大砲が鳴り響く音が聞こえて、次第に船も音のあとに揺れてきた。
「チッ・・・」
ローが上半身を起こして窓の外を見た。
「大砲・・・?私たち狙われてるの??」
大砲の音とか初めて聞いたし、明らかに狙われている感じ。まさか海軍とか・・・?
「ひゃあっ?!」
ローは噛みつくように私の耳たぶを甘噛みした。
そんな余裕かましている場合じゃないのに、と思っていると、ローはスッと立ち上がって肩に長刀を担いだ。
「お前はここにいろ。」
ローは深く帽子をかぶり颯爽と出て行ってしまった。

ここにいろ、って言われたって。。

外ではばたばたと忙しない足音と叫び声が聞こえる。
窓から外をのぞくと、金ぴかでゴージャスな船がこちらへと近づいてきていた。


「「キャプテン!」」
奥の部屋から出てきたローにクルーたちが目を向ける。
「キャプテン、この近くの島の王族の船みたいです。海軍ではな・・・」
「すぐに終わらせる。」
シャチの言葉を遮り、ローは船首の方に向かった。
いつになく寝起きの悪いローにシャチは気が気でなかった。

「!?」

豪華な船の先に立つ男の顔を見てローは固まった。
「トラファルガー・ロー、僕の美しい顔を見て、君は“手も足も出せなくなる”」
真っ青な目に見つめられて、ローは身動きが取れなくなった。


「ん・・・・?静かになった??」
ローの部屋にいた私。外が急に静かになったので、不安になりこっそり外をのぞく。
部屋は一番奥だから扉をあけたところで何も状況がわからない。
外の扉に近づくにつれて、クルーの悲痛の叫び声が聞こえた。
私はあわてて外に出た。
「!?」
皆がいたるところで倒れている。こちらが応戦した形跡が全くなく、ただただ床に血を流してうめいていた。
「シャチ、何があったの?!」
「・・・う」
意識がもうろうとしている。
ガッ・・・!!
いきなり腕を掴まれた。
ごつい腕の見知らぬ男が私を後ろから羽交い絞めにする。
「一人残ってましたぜ!」

「・・・っ貴方たちがやったの?!」
船首で刀も抜かずに倒れているローが目に入った。



何かが私の中で切れる音がした。




私は男の真正面にたつように向きを変え、ムキムキの胸筋に両手を押し付けた。

「“REJECTION”!!!!」

ドン!という鈍い音が響いて男の胸がミシリという音をたてて崩れた。
敵船からわらわらと武器をもった男たちが襲いかかってくる。
意識が飛びそうになりながらも、私は怒りを抑えきれずに無我夢中で向かってくる彼らに抵抗した。
何度も何度も両手がボロボロになっても、打ち続けた。

許せないっ
許せないっ!

でも私の抵抗もそう長くは続かずに、顔を床に押さえつけられてしまった。

敵船からまた何人かこちらの船にうつってくるのがわかった。
「こいつです、王子!」
私に指をさしたのは右手に包帯を巻いた、以前私をナンパした男だった。
その隣には大やけどを負わせた男。今はぴんぴんして王子と呼ばれた男にへこへこしている。
「君が、そうなのかい?」
「間違いないです。
“チユチユの実”の能力者です。」
芸能人のように端のたれた虫みたいなサングラスをかけた金髪の男が私をみた。
貴公子のようなぶりぶりの服を着ている。

「・・・・っっ離してっ!!!」

「威勢がいいね。そういっていられるのはいつまで続くかな・・・?」
「ショー!そいつの目をみるな!!」
気絶していると思っていたローが叫ぶ。
体が全く動かない様で、ローの表情がみえない。
「もう、遅い。」
王子はサングラスをはずしてすでに私の目を見ていた。

「“君は僕の虜になる。今日から僕の姫になるんだ。”」



ヒメニ・・・ナル・・・。
アナタノ・・・トリ・・・コ・・・。

「はい・・・」

私は王子の手を取り、黄金に輝く船へと足を進めた。






「ショー!

ショー――!」




ローの声は私に届くことなく、海の中へと聞こえて行った。
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