本章★ do or die..(長編)★

□THE HYPNOTIST
3ページ/3ページ

THE HYPOTEST-3-

―――――ナルシー王国の首都、サンジェルマン。
「王子、やりましたね。」
如何にも嫌らしい政治家たちが王子に両手をすりながらにやにや言う。
満足そうに鼻をならし、メイドに鏡を持たせながら自分の顔にうっとりしているエドワード4世。
「僕のこの“クラクラの実”の能力の前ではみな無力。
僕の命令に逆らえる者はいない。
嗚呼、何て罪深い男なのだ・・・!」
そう言ってはらはらとイスにもたれ掛った。
「この女を利用して同盟も有効に事をすすめることができましょう。
チユチユの実の能力者の血は、不治の病にも効果があると聞きます。
奴隷たちを半永久的に働かせることもできます。」
「ああ、そのためには彼女が僕のものであることを皆に知らしめなければならない。」
エドワード4世は立ち上がった。

「すぐに結婚式の準備を・・・!」

海楼石の首輪をつけられているショーを衛兵たちがひっぱる。
ショーの目は魂が抜けているように虚ろに天井をながめていた。
アナタノ・・・トリ・・・コ・・・
誰かが言った言葉が頭の中でわんわんとエコーしている。
ここは、どこ・・・なの・・・??




「号外―!号外―!!」
街中を両手いっぱいに新聞を持った少年が町中に号外をばらまく。
パサッ・・・
空振ってきた一枚を俺は手に取った。
「・・・・!?
エドワード4世、婚約。婚約パーティは今夜ナルシー城で行われ、結婚式は、三日後・・・だと?」
俺は無造作に号外を握りつぶした。


・・・・・上等じゃねえか。



婚約パーティは貴族と王族だけで執り行われようとしていた。
真っ白なカツラをかぶり、いかにも偉そうな貴族がふんぞりかえってはきらびやかなドレスを身にまとった婦人たちにダンスの申し込みをしている。キラキラ光るシャンデリアの中でオーケストラの生演奏が舞踏会を盛り上げている。中央の大きな椅子には、船に乗っていたエドワード4世。一生懸命に鏡を見ながら自分の髪の毛を整えていた。
俺は壁際にもたれ掛り、パーティの様子を退屈そうに見ていた。
羽織っていたテーラードのジャケットを腕にはさみ、白いシャツのボタンを窮屈そうに開ける。捲し上げられた袖からは、フォーマルとは似つかわないタトゥーが見えており、侯爵らしき男たちが顔をひきつらせて見ていたが人睨みするとそそくさどこかへ逃げて行った。

城に潜入となると普段の恰好だと目立ちすぎるので適当に入った町の仕立て屋に見繕ってもらった。

店を出て街を歩き出すと、人々が振り向いて俺を凝視した。
普段着より目立ってしまった格好に、普段着でパーティに切り込んでいけばよかったと後悔した。


いくらショーを奪いに来たといっても、スーツ着て何で気色悪いパーティに出てねえといけねえんだ。


「一曲いかが?」
誘ってきたのはコルセットをきつく腰に巻きつけて、谷間を見せつけるようにがっつり開いたドレスを着た女。
眉間に皺をよせて、上から女を見下ろしたまま睨みつけた。
面倒くせえ。これで何人目だ。
「・・・・・」
「あら、女性から誘われて断る殿方なんていないわよね。
貴方見慣れない顔ね、どちらからいらしたの?」
「ノースブルー」
女が怪訝な目をする。


「皆様、おまたせ致しました!」


執事が叫ぶ。
「我らが王子エドワード4世の婚約者を紹介いたします。」
オーケストラが曲を変えて大音量で場を盛り上げる。
「まあ」「おお」という驚きの声をあげる貴族たちの中、現れたのは一人の女性。

「・・・・っ」

ローはショーのドレス姿をみて息を呑んだ。が、すぐに不敵な笑みを浮かべた。
「ククッ・・・・ずいぶんバケたな・・・。」
肩のあいた薄いネイビーのドレス。巻き上げられたセミロングの髪はうなじに少し後れ毛を残しながら綺麗に上に纏められていた。
ショーの右手首に宝石で装飾のされた海楼石がはめられており、目の焦点はどこを向いているのかわからなかった。
メイドに促されてエドワード4世の隣に立たせた。そして彼はショーに寄り添い、怪しげな目を向けながらショーに何かを囁いていた。

ああ、イライラする。

――――・・・何だこの感情は。
ショーは自分の脅威となる能力者だ。味方につきさえすればいいと思っていたが、自分ではない男に触れるだけで自分が苛立っていることに内心驚いた。
戸惑いながらも俺はタイミングを計っていた。
ここでの出来事は最小限に抑えたい。何せこの大国はドレスローザと同盟を結んでいる。
“なおさらだ”などとクルーに啖呵切ったが、今は戦う時ではない。
ふいに曲調がワルツへとかわる。
ショーの登場に目をやっていた貴族たちが手を取りだって踊りだした。
エドワード4世がショーの手をとって階段からおりてきた。
ショーの足取りはおぼつかなく、今にも長いドレスの裾をヒールで踏みそうだった。
曲が流れると同時にショーとエドワード4世は手を取り合って踊りだした。



「一曲踊ってくれますか。」




一曲終わらない内に青い目のから声の方を振り返ると、金色に近い目をした男がいた。
鋭い眼光に差し出した手と、首筋から見えるのはたくさんのタトゥー。
「君、まだ曲は終わってないのだよ。」
エドワード4世はショーの腰に手を回しながら、ワルツを踊る。

「・・・・ええ」

「ちょっ・・・!」
青い目の彼を名残惜しく感じながらも、いつのまにか私はその男の手を取っていた。
わきあがるはずもない哀愁と望郷が心を引っ掻いた。
踊りなんて踊れるはずもないのに、腰と手に触れる感触が心地よくて、私の体はふわふわ浮いているように感じた。
ふいに男が私の耳に口元をよせる。


「・・・こんなことさせやがって。
バラすぞてめえ。」

その低い声に自分がブルブル震えていることに気づく。
なに、このひと・・・?
驚いてその男から体を引き離そうとしたが、体を強く引き寄せられた。
でもその温もりが何だか懐かしくって、これって何だったっけと思い出そうとしたけれど
自分の頭がズキズキ痛んでまた考えられなくなった。
「・・・・っ」
「ショー・・・」
吐息交じりに耳元で囁かれる。
胸が大きくはねた気がしたが、虚ろな意識の中で青い目が私の頭でチカチカ光る。



「わた・・・し・・は・・・・エドワードさま・・・の・・・とり・・・こ」


ブチ、と何かが切れる音がした。

何の音だろ・・・。

「・・・っふざけるな・・・」

「ん・・・っ・・・」

薄い唇が私の唇に触れる・


キャア、という貴婦人の声が二人の横であげられた。
パーティにいる貴族が一斉に私たちに視線を寄せる。
いつのまにかオーケストラの演奏も止み、あたりが静まり返る中かすかなリップ音だけが響く。

「ん・・・はぁ・・・」

優しいキスは一瞬だけ。あとは息つぎができないほど何回も噛みつくように口を塞いできた。
ガシャンッ・・・
なにか重たい物が腕から外れた音がした。
けど全然身動きがとれなくて、何が落ちたのかわからない。



「う・・・んっ・・・」


・・・・あれ・・・ちょっと待て。
今まで夢を見ていたようなふわふわした感覚から、急に目覚めたような。
意識が少しずつはっきりしていくなかで、自分があまり呼吸できていないことに気づく。
顎を親指で無理やり下げられ、生暖かいものが入り込もうとしたその時、

「・・・ってうぉい!!!!!」


ローの顔面を思いっきりひっぱたいた。
「はぁ・・・はあ・・・。
・・・・・・ん?」


自分の甲で、自分の唇をぬぐう。ガサガサした感触が自分の口にあったため、ふと自分の手を見る。
レースのアームカバーで覆われた自分の手、ネイビーの肩のがっつりあいたドレス。
壁一面に張られたガラスに目をやると、驚いて固まる一人の女性と目が合った。
なんでドレスきてるの?
ここは何?ってか皆なんで固まったまま私を見ているんだ??
「・・・・ってえな、おい!てめえ!」
目の前には右の頬を赤くしたロー


私、何してたんだっけ。
そうだ、青い目をした変な男に見つめられて、それで・・・。
一気に現実に引き戻されて、凍りつく。

でも私が状況を理解するまでに武装した男に囲まれていた。
「穏便に済まそうとおもった俺が馬鹿だった・・・・
“ROOM”!」
ブゥン・・・と鈍い音をたてて薄い膜が舞踏会場を覆う。
いつのまにかローの肩には抜かれた長刀が。
ローは私の頭を乱暴に左手で下げると、その上を刀で振り払った。

「うわああああ!」
「きゃあ!!」

それは狂気の空間。
生きたまま人間がバラバラに分解され、無残にもののようにぐるぐる回される。
これがオペオペの実の能力・・・?


私が呆気にとられながらも、ローの顔を見上げた。
そこには端整の取れた綺麗な顔が、口を引き揚げながら笑っていて。
そんな状況ではないのに、私はすごくかっこいいと思ってしまった。
はたと自分の体を見るとやはりなにも起こっていなかった。


「くっ・・・逃がすな!!」

衛兵たちが次々と空間に飛び込んでいく。
弾丸が私たちを襲う。
「”shambles”!」
銃口から飛び出た弾丸はいつのまにか衛兵たちに向かっていく。
無敵と言わざる負えない力の差に男たちはただただ叫ぶだけ。
「と、トラファルガー・ロー、貴様!!」
エドワード4世が髪を乱しながらローに向かって声を荒げた。
「・・・っだめ!!」
一瞬彼の目を見ただけだったのに、“ROOM”はすぐに解除されて、たくさんの弾丸が私たちめがけて飛んできた。
「・・・っ!」
ローに被さって必死に守る。私は何があってもいい。ローだけは、守らなければ・・・
「ぐっ」
でも何重もの玉からはローを守りきれなくて、ローの右肩に弾痕がかすめた。
「ロー!」


「ハハハッ!
女に守られては世話ないね!
その女ともども消えてもらおうか!」


「・・・チッ。」


体勢を整えたローが再び空間を作り出す。
ショー、と叫ぶローの静止をふりきって、私はその膜から飛び出て、王子の懐にむかった。
とにかくローを傷つけられたくなくて、私は必死に走った。
王子の青い目が光った気がして、私はぎゅっと目を瞑り、王子に体当たりした。



「“REJECTION”!!!」



使いたくない技だった。
でも、今すぐこの状況を終わらせたかった。
王子は金切声をあげて、何重もの弾丸をうけたように体中から血を吹き出して倒れた。



「・・・ハア、ハアッ」

「ショー!」



ローの声が聞こえて、私は彼の手を無我夢中で掴んだ。




バカかてめえはとか、死にてえのかとか、
とにかく逃げながら色々な罵声を浴びせられて、
私は息継ぎの途中で、うん、うんとしか返せなかった。




でも助けに来てくれたことが嬉しくて、

私は靴をいつのまにか投げ出して、
足が傷だらけになりながらも
ローの手を強く握って
海まで走り続けた。
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ