小説

□DEAD OR ALIVE(R-18)
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まず、目の前に入ってきたのは暗闇。
手を動かそうとすると、ジャラと金属音が響き、鎖で拘束されていることに気付く。
「なんだよ、これ…」
エレンは青くなる。
嗅ぎ慣れたカビ臭さは、おそらくここは地下に違いない。
見たことのない天井の、見慣れない、病院にあるようなベッドにエレンは寝かせられていた。
そして、それは一糸まとわぬ姿で寝かせられており、足も閉じることができないよう、拘束具で固定されていた。
この自分の身に降りかかっている異常事態。
エレンは鎖や拘束具をどうにかしようともがいたが、虚しく金属音が響くだけだった。
「なんで、こんなことに…」

エレンは調査兵団本部に、リヴァイと共に来ていた。
リヴァイは、兵士長として会議に出席するためで、そのリヴァイが行くところには必ず、エレンも監視されるためについていかねばならなかった。
監視されるためとはいっても、調査兵団本部でのエレンは敷地内から出なければある程度自に動き回る事ができた。
なぜなら、対巨人に対し、訓練された兵士が多くいるこの場所なら、いざという時対処する事もできるからだ。
「ふ…んん…」
中庭の木陰で、木と己の腕の中にエレンを閉じ込め、その唇を堪能する。
拙くも一生懸命答えようとするエレンの舌をうまく絡め取り、吸い付き、歯列をなぞる。
隙間などないほど、口内を堪能してもなお、深く追求しようとする。
「ん…、へいちょ…う、会議、始まっちゃいますよ」
離れたくないのはエレンも同じではあったが、このままではなんのためにここまで来たのかわからない。
リヴァイは、エレンのこの言葉に、眉間の皺を深くしたが、確かに、時間が迫っているのは事実だ。
仕方なしに、エレンを解放してやると、エレンは口付けだけで、腰にきてしまい足に力が入らなくなってしまった。ズルズルと木を背にそのまま座り込む。
「すぐ、戻る」
言ってリヴァイは、エレンの額にキスをした。
「いってらっしゃい」
少しはにかみながら言うエレンが、可愛くて、このまま抱きしめたまま連れ去ってしまいたい衝動にかられるが。
だが今日の会議は、そんなエレンの命の生死も左右する。出ないわけにはいかない。
後ろ髪を引かれる思いで、リヴァイはなんとか建物の中へと入って行った。
その背中を、見えなくなるまでエレンは見送った。
自由に歩いていいとは言われても、特にしたいことなどない。
エレンはこのまま、ここで待っていようかな。
会議の部屋からも近いし。
ふっと、笑って、先程までリヴァイと接触していた唇に、自分の手で触れる。
濃厚なキスの名残りでどちらのものかわからない唾液で濡れている。
誰が潔癖性だって?
エレンに対してだけは何かとなんでも触れたがるリヴァイは、他の人だと握手を交わすだけでも嫌なのだとか。
エレンから見るとそれは信じられないことだと思ったが、リヴァイと付き合いの長いハンジやエルヴィンから見れば、エレンに対する態度の方が信じられないらしい。
とても愛されていると思う。
少々強引なところがあっても、エレンが本気で嫌がるようなことは、リヴァイは絶対しない。
どんなことがあっても、リヴァイはエレンをまっすぐに見つめ、信じてくれる。
そんなリヴァイに惹かれ、はじめは憧れと尊敬しかなかった想いが、いつしか恋心に変わり、2人がくっつくのに、そう、時間はかからなかった。

そう、たしか、あの中庭でリヴァイを待っていたはずなのだ。
柔らかく、生暖かい風に包まれてうつらうつらしていたと思ったら、どうやら寝てしまったのだろうと思う。
ではその間にこんなことになってしまったのだろうか。
誰がいったい、何のために?
窓もないこの部屋では、今が一体何時くらいで、どのくらい時間がたっているのかわからなかった。
手の鎖と、足の拘束具を外そうと、どのくらい格闘していただろう。
できてしまったのは青いあざと、赤い擦り傷だけだった。

ギィ…

その時、黒く重い扉が開いた。
視線を向ければ、見たことのない男が、そこに立っていた。
「あぁ、気が付いた?」
中肉中背の男は、柔らかく微笑みながら中へと入ってきた。
ズシン、ガチャリ。
重く厚さもありそうな鉄製の扉を閉めると、ご丁寧に鍵までかける。
男は銀のトレイを手に持ちながら、エレンの元へと近づいてきた。
カチャカチャと何か入っている音がする。
嫌な予感しかない。
男は、エレンのそばまで来ると、そのトレイを小さな台の上に置き、何やら作業を始めた。
「あんたが…、やったのか?」
エレンは話しながら、己の口の中が乾いていることに気付く。
ヤバイ。この男は危険だ。
エレンの頭の中で警報がなる。
「ん?あぁ。そうだよ。ちょっと待ってね、これをこうして、あぁ、できた」
男が手に持っていたのは注射器だった。
その注射器はもちろんエレンに使うつもりなのだろう。
「よせっ、お前っ。なにするつもりだ」
ガチャガチャと鎖が鳴るだけで、エレンの拘束具はビクともしない。
「大丈夫。こわくないよ。すぐ終わるから。
エレンも、気持ちいい方がいいでしょ」
言いながら男は、プスリとためらうことなくエレンの腕に突き刺した。
妖しい、透明な液体がエレンの中に吸い込まれて行く。
すべて注入を終えると、男は使用済みの注射器を床に放り投げた。
「さてと、気分はどうだい?エレン?」
男の言っている意味がわからない。
と、突然、ドクンと胸の鼓動が大きく跳ねた。
身体が、熱い。
呼吸が乱れる。
「お前、俺に何をした」
エレンは精一杯、殺気を込めて睨みつける。
「ちょっとした媚薬だよ。そんな潤んだ瞳で睨みつけても煽ってるだけだよ」
言いながらつぅと、男は指でエレンの肌をなぞる。
それだけでエレンの身体はビクリと跳ねた。
「ククッ、たまんないね。俺にこんなことされて、気持ちいいんだ?」
「触んな!クソッ」
しかしエレンの抵抗は、男には届かない。
身体がいう事を聞いてくれない。
嫌なのに、気持ち悪いのに。
男に触れられた場所が熱くなって、自分でどうしようもない。
「ああ、クソッ」
ガチャガチャと拘束具の鎖の音が響く。
このまま俺はここで、こいつに犯されるのか。
こんなわけのわからない状況で、名前も知らないような奴に。
エレンの脳裏に浮かぶのはたった一人の愛しい人。
あの人は、会議が終わったかな。
俺がいない事に、気付いているのかな。
潔癖性のあの人は、俺が他の奴に犯されたと知ったら、もう触れてはくれないかな。
エレンの目から涙がこぼれ落ちた。
「兵長、たすけてっ」
エレンは叫んだ。
「無駄だ。いくら叫んだところで声など届かない。
ここは昔、拷問部屋だったらしいからな。
それに、いかにリヴァイが人類最強と言われようと所詮人間。
あの鉄の扉を打ち破る事などできはしない。」

ドゴガァンッ

男が言い終わるのとほぼ同時だっただろうか。
ものすごい轟音と共に、扉がこちら側に倒れこみ、壁が木っ端微塵に弾け飛ぶ。
「ヒッ、そんな。まさか…」
男は恐怖で尻餅をついた。
ヒュッと風を着る音がして、壁にステンレスの鋼が突き刺さる。
土煙が消えるより先に、今、エレンが最も求めていた人物が、男をエレンから引き離し蹴り上げていた。
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