小説

□躾
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カビ臭い。
鼻につく不愉快な香りに瞳を開ければ、暗闇だった。
ズキリと頭が痛む。
抑えようと手を動かして、ジャラという鎖の音を耳にした。
手を鎖で繋がれていた。
ちっと思わず舌打ちする。
「あ、気付きました?」
リヴァイが気付いたことに今気付いたようだ。
「テメェ、どういうつもりだ?」
下からリヴァイはおもいきり睨みつける。
調査兵団兵士長として、数多の戦場を乗り越えてきたリヴァイ。人類最強のその名は伊達ではなく、普通の者であればその視線に恐怖を覚え、背筋を凍らせ、己の明日を諦めたことだろう。
しかし、目の前にいる男は違う。
さらりとその視線を受け流し、口元には笑みすら浮かべている。
「怒らないでくださいよ。いつも兵長が俺にしていることじゃないですか。
どうです?気分は。」
エレンは冷ややかに、リヴァイを見下ろした。
「は、俺にこんな趣味はねぇ。早く外せ」
ジャラジャラと耳障りな音が響く。
巨人になれるエレンを繋ぐ為の鎖だ。どうやら金は惜しまなかったようだ。
簡単に外れそうにない。
そんなリヴァイに近付くエレン。
「嫌ですよ。やっと貴方を捕まえたのに。
人類最強を見下ろすのは気分がいいですね」
「言ってろ。クズ野郎」
血反吐を吐きそうだった。
ギシッと音を立てて、リヴァイのいるベッドが軋む。
エレンはリヴァイの顎を掴むとそのまま口付けた。
「んんっ…」
深く、貪りつくような口付けをする。
己の口内に進入しようとするエレンの舌をリヴァイは思いっきり噛み付いた。
さすがに離れるエレンの唇。
しかしすぐに視線が揺れて、鈍痛がリヴァイを襲う。
どうやら殴られたようだと気付いたのは、自分の歯が床に落ちてるのを見てから。ジワリと、口内に鉄の味が広がる。
そのまま、足で頭を踏みつけられた。
「躾に一番効くのは、痛み、でしたよね。…兵長が教えてくれたんですよね」
いつかの逆か。
おかしくて、笑いがもれる。
あの時は、理由があった。エレンを調査兵団へ入れるのを認めさせるための演出だ。
では、今は?
俺を、大人しく言うことを聞かせるための暴力か。
クソが。
屈するつもりはなかった。
「…痛みがありゃ、確かに躾になるだろうが。
テメェの蹴りなんざ、蚊が止まったようなもんだ。躾になんざ、到底ならねぇな」
リヴァイが言ったのとほぼ同時に、腹部に蹴りがはいる。
エレンも、リヴァイほどではなくとも己の肉体を鍛え上げた兵士だ。
それなりの痛みが伴うが、リヴァイは呻き声ひとつ、あげなかった。
「あぁ、そうですよね。すみません。
でも俺、躾に関しては少し意見がちがうんです」
目だけて、リヴァイはエレンを見上げた。
「これは持論ですが、躾に一番効くのは快楽だと思いますよ」
エレンの口角は上がっていたが、その瞳はひどく冷たかった。
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