小説

□選択
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目の前で、何が起きたのか、わからなかった。
風を切るように飛んでいたはずのグンタさんが体制を崩した。
見ると首が切り離されていて…
「エレン止まるな!進め」
某然とした俺の服を掴んで、オルオさんが叫んだ。
「誰だ!!」
「エレンを守れ!!」
一瞬にして緊張感が走る。
身構えたペトラさんと、エルドさん。
「馬に乗る暇はない!!全速力で本部に迎え!!とにかく、味方のもとへ!!」
エルドさんが厳しい声で指示を送る。
どうして?
まさか女型の巨人が?捕まったんじゃなかったのか!?
その時カッと光と熱風が辺りを包む。
出てきたのは女型の人。
頭に血が登るのがわかる。
「くそ…、今度こそやります!!オレが奴を」
「ダメだ」
しかし俺の意見はすぐに却下される。
「お前の力はリスクが多すぎる」
「何だてめぇ…、俺達の腕を疑ってんのか!?」
「私たちのことがそんなに、しんじられないの?」
エルドさん、オルオさん、ペトラさんは次々と俺に言葉を浴びせる。
彼らは調査兵団の中でもリヴァイ兵長に選ばれた人達だ。
腕は確かだ。
俺は怒りを抑え、グッと拳を握りしめた。
「我が班の勝利を信じてます!!ご武運を!!」
仲間を信じて背を向けた。
いや、信じたかったんだ。
だけど、先輩達は健闘むなしく、儚く、命を落とした。

「ああ、また、夢か」
自分の悲鳴で目が覚める。
まだ起きるのには少々早い時間ではあるが、また同じ夢を見るような気がして、俺はベッドから身を起こした。
まだ身体の疲れは抜けておらず、とてもダルイ身体に鞭打って洗面所へと向かう。
夢、だけど、夢じゃない。
この広い古城に今いるのは、リヴァイ兵長と俺の2人だけ。
他の皆は、死んだんだ。
俺が、選択を間違えたから。
「くそっ…」
鏡に映る自分はひどく情けない顔をしていた。
「ずいぶんと、ひどい顔だな。エレンよ」
後ろから突然声をかけられて、視線を移せば、鏡に映る兵長の姿。
いつの間に来ていたのだろう。
「きちんと寝ろ。でなければ、いざという時、闘えねぇ」
不機嫌そうなしかめっ面で。
俺のそばに寄る兵長。
「…夢を見るんです。グンタさんや、エルドさん、オルオさん、ペトラさんの」
俺の言葉に、兵長はピクリと眉だけで反応する。
あまり、よくない表情だ。
「俺が、あの時選択を間違えなければ、今もまだこの場所にいたかもしれない」
そう。
俺が自分の力を信じれば。
その時、頬に強い衝撃を感じて、身体が吹き飛んだ。
壁に打ち付けられて、ずるずると座り込む。
見上げればリヴァイ兵長が拳を挙げていて、殴られたんだとわかる。
「テメェはいつまでグダグダ言ってんだ?あいつらを無駄死にさせるつもりか?」
「だって、あの時、俺なら!!」
「暴走しない保証があるのか?」
「…っ、でもっ…」
「巨人化したとして、女型ではなく、あいつらをテメェが殺さないと言い切れるのか?」
「……………」
言葉に詰まり、ぎゅっと拳を握る。
兵長ははぁと長くため息をついた。
「俺は言ったはずだ。後悔しない方を選べと。そして貴様は選んだ。
なら、後悔するな。」
グサグサと突き刺さる兵長の言葉。
「あいつらも選択したはずだ。己の力を信じて、テメェを守る道をな。
だからテメェは生きてる。ちがうか?」
フルフルと俺は首を横に振る。
「あいつらの死を無駄にするな。後悔する暇があるなら、生かす道を考えろ。」
殴られたのは頬なのに、胸が痛む。
つんと花の奥に感じて、視界がゆがむ。涙が溢れて、ポタリと落ちた。
必死に拭おうとしても、次々と溢れくる。
その時、ふわりと暖かなものに包まれた。
兵長の胸だった。
「泣け。それくらいは許してやる」
「ふ…う…、兵長…」
俺は泣いた。
兵長に抱きしめられながら。
広すぎる古城で、兵長のぬくもりに縋って、声が枯れるまで。

強くなろう。
巨人の力になんか負けないように。
二度と、暴走なんかするものか。
支配してやる。この力を。

兵長は、静かにずっと俺を抱きしめ、背を撫でてくれていた。


おしまい。

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