小説

□傷(未)
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俺と兵長の間に、愛はない。
「あっ…んっ…へいちょっ…んぐっ」
名前を呼ぼうとしても、口はその手で封じられる。
噛まないようひとつに結ばれた手は、伸ばすことなどできるはずもなく、また、暗闇しか映さない視界は布で覆われている。
感じるのは、兵長の、指と、体温と。
声は一切かけてくれることはない。
俺たちにあるのは寂しさをうめるだけの慰めと、性欲処理のみ。
わかっている。
だけど、どうしてかな。
胸が痛くて、壊れそう。
視界を遮られて、感覚が研ぎ澄まされた俺の卑しい身体は、兵長を受け入れ、突かれ、イッた。


身体が、ダルい。
目を覚ませば、いつもの地下の自分の部屋。
窓もなく、時計もないこの部屋では、今が何時なのかわからない。
(喉が、乾いた)
俺はノロノロと布団から出ると、キッチンに向かう。
誰もいない古城。
かつてはたくさんの笑顔であふれていたはずのこの建物は今は俺と兵長ふたりきりで暮らしている。
しかし唯一の同居人である兵長は今はいない。
調査兵団の会議があるとかで、外出して、夜まで戻らないはずだ。
俺は少し寂しいような、ホッとしたような、自分の感情がよくわからなかった。
コップに注いだ水を飲み干すと、身体の先までじんわり伝わって行くようだった。
「なんだ、いるなら返事しろよ」
誰もいないはずのキッチンで声をかけられ、俺は慌てて振り返った。
そこにいたのは…
「ジャン…」
訓練時代、いつも喧嘩ばかりしていたジャンだった。
「兵長ならいないぜ」
新兵である俺に用などあるはずもなく、俺はそっけなく言った。
「だろうな。見合いだろ?」
ジャンの言葉に俺は手を滑らせた。
グラスが粉々に割れ、飛び散る。
「っぶね。おい、大丈夫か?」
俺の頭の中は真っ白だった。
見合いだって?
そんな話、聞いていない。一言も。
「おい、エレン」
グイッと力強い力で引っ張られたかと思うと、気付いたときには、ジャンに抱きしめられていた。
「ジャン…?」
俺は、ジャンがどうしてこんなことをするのかわからなかった。
でも大きな腕に抱かれてとても暖かい。
「俺にしろよ、エレン。俺なら、お前にそんな顔させない」
顎を掴まれたかと思うと、口に暖かな感触が触れる。
目の前にはジャンの顔があって、口付けられているということに気付いた。
深くなる口づけ。
頭を手で抑えられていて、逃げることができない。
舌が滑り込んで来て、俺の口内を貪る。
俺は抵抗しようと思えばできたのに、受け入れた。
「ん…ふっ…」
さすがに苦しくなって、ジャンの胸を叩くと名残りおしそうに離れた。
ジャンの股間に視線を向ければ、そこは服の上からでもわかるほど勃起していた。
「なに、勃たせてんの?」
「仕方ねぇだろ。テメェがエロい声出すからだろ」
顔を真っ赤にしながらぷいっと顔を背ける。
その様子がなんだかおかしくて俺は口元を綻ばせた。
「俺が欲しい?ジャン?」
俺の言葉に、ジャンは目を丸くする。
なんか、もう、ジャンの優しさに甘えたくなった。
「俺を抱いてよ。何も考えられなくさせて?」
「いいのか?…途中でやっぱダメとか言ってもやめらんねぇぞ?」
ジャンがゴクリとツバを飲み込む。
「俺も男だ。わかってるって」
言いながら、俺はジャンに身を任せた。
俺は卑怯だろうか。
でも、もう、疲れた…。
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