小説

□知らないのは君だけ
1ページ/1ページ

のどかな日だった。
夏が終わり、もうすぐ秋がやってくる。
陽射しもだいぶ柔らかくなってきたようだ。
「なぁ、アルミン。俺って、魅力ないのかなぁ」
「え?は?魅力?」
高校の昼休み、のどかに屋上で弁当を食べていたら突然エレンが変なことを言い出した。
アルミンは嫌な予感しかしない。
そんなアルミンをエレンはまっすぐに見つめた。
「リヴァイさんが、俺を抱いてくれないんだ」
エレンの爆弾発言に、アルミンは持っていた牛乳を盛大に握りつぶした。
「あっ、エレン、ごめん」
中身を全て目の前にいるエレンにぶちまけてしまった。
アルミンはポケットからハンカチを取り出し、丁寧に拭う。
この場所にミカサがいなくてよかった。
委員会の集まりで席を外していたのだ。
アルミンに拭かれながら、エレンはポツリ、ポツリと話し始める。
「前の時は、…俺が立てなくなるまでヤッたのに、今は、2人きりでも寸止めで。まさか、兵長不能なのかと思ったけど、違うみたいだし…」
「ふ…ふぅん」
アルミンは苦笑いしながら相槌をうつ。
立てなくなるまでって、そんなしてたの?君たち。
あの、明日もわからぬ時代で?
いや、だからこそ燃えるのかな。
エレンは深く悩んでいるようだが、アルミンから見れば、リヴァイはむしろ我慢しているのではないかと思う。
今この時代は、リヴァイは先生で、エレンは高校生だ。
犯罪として、罰せられる危険もある。
そうなれば、リヴァイも、そしてエレンの未来に影響が出るだろう。
明日も未来も、やってくるのだ、この時代は。
「愛し合うのはもう少し時間が経ってからでも遅くないんじゃない?
この時代に、巨人はいないんだから」
「ほう、誰と誰が愛し合うのか、教えて欲しいものだな。アルミン・アルレルト」
アルミンの背後から声を掛けられ、背筋が凍りついた。
リヴァイが殺気をはなっていたからだ。
慌てて振り返れば、不機嫌オーラ全開のリヴァイがそこに立っていた。
なぜ、こんなに不機嫌なのだろう。
思い返し、はっとした。
エレンの姿を見つめる。
白いものでベトベトになりながら、涙目で佇むエレン。
アルミンの手は決して他意があったわけではないが、エレンの股間近くにある。
「へ…、兵長っ、いえ、リヴァイ先生!誤解です」
アルミンは顔を真っ青にしながらエレンと距離をとる。
「ほう。言い分を聞いてやる。一分以内で俺が納得できない時は、覚悟しろ」
一分って、どれだけ短いんだ。
嫌だ。
せっかく平和な世に生まれたのに、人生が終わってたまるか。
アルミンは必死に頭をフル回転させた。
「この、白いものは牛乳です。エレンが涙目なのは、悩みを聞いていたからです。俺のこの手は、牛乳を拭っていたからで、その証拠にハンカチがあります」
あるみんはハンカチを持っていた左手を高々とあげ、右手は拳を作り、心臓に当てた。
瞳をぎゅっと瞑る。
もし、この言葉を信じてもらえなかったときには、歯の一本でも覚悟するべきだろうか。
しばし、訪れる静寂。
コツコツと、リヴァイの足音が聞こえる。
その足音は、アルミンを通りすぎた少し後ろで止まった。
「…牛乳だっていうのは、本当みてぇだな」
リヴァイのその言葉を聞いた瞬間、アルミンから力が抜ける。
思わずその場にへたり込んだ。
アルミンが目を開けると、リヴァイがエレンの隣に立ち、エレンの腰に手を回している。
「リヴァイさん、臭くなっちゃいます」
「うるせぇ。んな卑猥な姿で校内ウロつくんじゃねぇ」
リヴァイはエレンの首筋にあった牛乳を舌でなめとる。
「あっ…んっ。兵長」
エレンから上がる甘い声。
正直、アルミンは初めて聞いた。
驚きに目を丸くしていると、首筋に顔を埋めていたリヴァイと目が合う。
あー…、オジャマ…ですか。
アルミンはさっさと風呂敷で弁当を包む。
「僕は用があるのを思い出したので、失礼します」
「え?アルミン?」
エレンはアルミンを振り返ろうとしたが、リヴァイの手がそれを許さなかった。
苦笑しながら屋上を後にする。
エレンは抱いてくれないと嘆いているが、リヴァイは相当我慢しているようだ。
リヴァイのエレンに対する独占欲は日々増殖しているように思う。
きっと気付いてないのはエレン本人だけ。
はやく高校を卒業したいな。

アルミンはこれからの学校生活が、少しだけ、憂鬱になった。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ