小説

□なんでもない日
1ページ/1ページ

朝、6:30
「エレン、朝だ。起きろ」
エレンはリヴァイのモーニングコールで目覚める。
「ん…、兵長、おはようございます。」
まだ半分夢の中。
今この時代は兵長じゃねぇって。
言いながらリヴァイはクスリと笑い、まだ眠気まなこでボーッとしているエレンに触れるだけのキスをする。
「朝食、できてるぞ」
「んー、ありがとうございます…」
まだ、時間かかるな。
リヴァイは部屋にエレンを残して扉をしめた。

朝、7:00
「リヴァイさんっ、すいません。二度寝しましたっ」
バタバタっ、ガチャリっと騒がしい音を立ててキッチンへ入ってきたエレンは、まだ寝癖もたったままだ。
ダイニングテーブルの上にはラップをかけられた目玉焼きと、ほうれん草のおひたし。そして焼き鮭。
「気にするな。昨日も遅くまで勉強していたんだろ。
先に行くぞ」
きっちりとしたスーツ姿に、ネクタイもしめて、髪もスッキリとあげて固めた完璧な姿で、リヴァイはすでに玄関で靴を履いている。
「あ、はい。いってらっしゃい」
一方、まだパジャマ姿のままで、エレンは慌てて玄関前でお見送り。
「遅刻、するなよ」
悩殺笑顔でキスをを残し、リヴァイは去って行った。
「カッコイイ…」
今日もエレンはリヴァイにメロメロだ。
キッチンに戻って、鍋の蓋を開けるとワカメと豆腐の味噌汁が入っていた。
「いただきます」
きっちり手を合わせてから頂く。
今日も朝ごはんは美味しかった。
完食したエレンは空になった皿を流し台へ運ぶ。リヴァイの分も、皿を洗うのはエレンの役目だ。
洗い終えてキュッと蛇口を捻る。
なんとなく時計を見ると、時間は7:30。
「やべっ。着替えなきゃ」
急いで制服に着替えて、リヴァイが用意してくれた弁当を鞄へ突っ込む。
「行ってきます」
誰もいない部屋へ挨拶をして、鍵を締めた。

8:30。
セーフだ。なんとか間に合った。
ちょっと途中走ったせいで腹が痛い。
はぁとため息をついて、どかっと自分の席に座る。
切れた息が整う前にチャイムが鳴り、前の扉が開く。
中に入ってきたのは朝別れた愛しい人。
仏頂面で不機嫌オーラを放ちながら、実は生徒をよく見ていて、面倒見もいい。
何気に人気があったりする。
低い声が心地いい。
思わず目を瞑って聞きいる。
スコーンっ
「あいたっ」
頭に何か当たった、エレンが後ろを振り向けばチョークが落ちていた。
「居眠りとはいい度胸だな」
「居眠りじゃありません!!」
頭を抑え、涙目で抗議した。
もう目を瞑るのはやめよう。

12:00
パカッと弁当箱を開けると、色とりどりのオカズが視界に入ってきた。
卵焼きはハートだし、うずらはヒヨコに加工されている。
「リヴァイ先生って、器用だよね」
屋上で、一緒に昼食をとっていたアルミンが感心する。
「エレン、私の卵焼きも食べて」
ミカサは箸に黒い物体をのせて、エレンの口へと運ぶ。
いやいや、それ、腹壊すレベルだから。
なんとか格闘しながら、ミカサの攻撃をかわすエレン。
リヴァイの作ってくれた弁当を食べながら、ご満悦だ。
「エレン、放課後みんなでカラオケに行こうかって誘われてるんだけど、エレンもどう?」
「あー、いや、俺はパス。掃除と夕飯の支度があるから」
「そっか。なんか、エレンはすっかりリヴァイ先生のお嫁さんって感じだね」
「へへっ、そ、かな」
そうアルミンに言われ、まんざらでもない様子のエレン。
「私は認めない。あのクソチビからエレンを奪ってみせる」
「いい加減、諦めようよ、ミカサ」


15:00
授業が終わって放課後。
クラスメイトは皆、遊びに行ったり、部活へ急ぐ中、エレンは1人特売スーパーを目指す。
赤いカゴを手に持ち、野菜や肉を物色する。
今日の夕飯は何にしようか。
ひき肉が安いからハンバーグかな。
玉ねぎは家にあるし。
エレンの頭の中にあるのは、愛しい人が食べて喜ぶ姿。
あ、でも、チーズを乗っけたら結局俺が好きな食物になるな。
一人でふっと、笑い買い物を済ませ、帰路につく。
料理の下ごしらえを終えて、掃除にとりかかった。


19:00
ピカピカに部屋が磨かれたあと、玄関の扉が開く。
「ただいま」
「あ、おかえりなさい」
食事の用意をしていたエプロン姿で、エレンはリヴァイのお出迎え。
リヴァイはエレンの腰を抱き、チュッと触れるだけのキスをする。
「お風呂、できてます」
「いってくる」
シュルッとネクタイをほどきながら、リヴァイは浴室へと向かう。
エレンはバスタオルや部屋着など用意をして脱衣所へ置いた。
パタパタとスリッパで忙しく部屋を周り、夕食をお膳に並べる。
今日はチーズハンバーグと、マッシュポテト。コーンスープにデザートにバニラアイスまで用意してみた。
千切りキャベツを添えることも忘れていない。
「うまそうだな」
いつのまにか、風呂から上がったリヴァイがエレンの背後に立っていた。
「でしょ?今日はちょっと上手くできたと思うんです」
ほんのり焦げた部分は、チーズが上手くカバーしてくれている。
お膳に向かい合わせですわり、手を合わせた。
「いただきます」
箸をつけるリヴァイを見つめるエレン。
ゴクリと飲み干したのを見て話しかける。
「どうですか?」
「悪くない」
あまり、褒めることの無いリヴァイの賛辞の言葉だ。
「よかった」
ホッと胸を撫で下ろし、エレンの顔に、笑みが浮かぶ。
褒められて嬉しいのか、ほんのり顔が赤い。
そして、それを見たリヴァイの目もまた細められた。
それからたわいない話をして、食事を終える。
終わった後、エレンはリヴァイの好きな紅茶をいれる。
そして、そのカップを少し変わった手つきで飲む姿を見届けてから、自分は教科書を取り出す。
宿題と、勉強のためだ。
リヴァイは、エレンが入れてくれた紅茶を飲み干すと、皿を洗う。
洗い終わって後ろを振り返ると、エレンは教科書とにらめっこをしたまま、いっこうにペンが進んでいない。
「どこにつまづいてやがる?」
「あ、ここです」
後ろから声をかければ、素直にエレンは教科書の一点をゆびさす。
「ここはだな…」
リヴァイはエレンの隣に座ると、鉛筆を奪いサラサラっとノートに解説してゆく。
「ああっ、なるほどっ」
「テメェはなんでもまっすぐ考えすぎんだよ。少しは疑え」
「はい、すいません」
エレンはこれでも、リヴァイと同棲するようになってから成績はマシになった。
最初の頃はわからないところがわからない状態だったのだ。
一生懸命教科書と格闘するエレンを見て口元を緩める。
タバコとライターを手にベランダへと出た。
ユラユラと煙が夜空へと登る。
「あのー、へいちょ…、リヴァイさん」
「どうした?なんかわからない問題がまたあったのか?」
「いえ、終わりました。…そっちに行ってもいいですか?」
ベランダの窓から顔を覗かせたエレンの言葉に、まだ火をつけたばかりのタバコを灰皿へと押し付ける。
「おいで」
いちいち了承をとる必要などないのに。
リヴァイが手を広げて迎えいれると、エレンは笑顔になって、飛びついてきた。
「星、綺麗ですね」
「そうだな」
ふたりで空を見上げる。
雲ひとつなかった。明日は快晴だろうか。
「くちゅん」
エレンがくしゃみをする。
「寒くなってきたな、部屋に戻るか」
「はい」
リヴァイは、エレンを抱き寄せたまま部屋に戻る。
そしてそのまま、2人一緒にベッドルームへなだれ込む。
押し倒されながら、リヴァイに手を伸ばすエレン。
エレンに優しくキスの雨を降らせるリヴァイ。
「リヴァイさん、今度の日曜日、おやすみですか?」
「あ?どっか行きてえのか?」
「海に行きたいです」
「…ホントに好きだな。テメェは。いっそ海の前に引っ越すか?」
「それもいいですね」
エレンは笑う。
リヴァイも笑う。

これからも2人でなんでもない日々を過ごそう。
そして一緒に海を見て、おじいちゃんになろう。

こうして、今日がまた終わった。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ