小説

□残酷な世界
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世界はとても、残酷だ。

バンッ
苛立ちを隠そうともせず、リヴァイは目の前の机を強く叩きつけた。
その瞳に宿すのは殺気。
目の前の男は、人類最強の視線を受けながら、さらりと涼しい顔をして受け流す。
「リヴァイ…、これは決まったことなんだ」
「ふざけるな!エレンの腹の中の子供は俺の子だ。
そいつを殺せだと?納得できるわけあるか」
吐き捨てるように言い放つ。
「だが、リヴァイ。君の仕事は、いざという時エレンを殺すための監視だ。
孕ませたのは、明らかに業務違反だ」
「…っ」
「我々、人類の存亡の為にはエレンの力が必要不可欠だ。
そのために、障害になるものは全て殲滅する」
腕を組んで、その下に頭を下げるエルヴィン。
その表情は見えなくなった。
だが、彼ならばやるだろう。
人類全ての命と、お腹の中にいてまだこの世に誕生すらしていない赤子一人の命を天秤にかければ、どちらをとるか明白だ。
リヴァイはギュッと拳を握る。
確かに、俺の落ち度だ。
だが、はいそうですかと、簡単に納得できるものではない。
ここで抗わなければ、必ず後悔する。
それだけは、わかる。
「…巨人をすべて、駆逐すりゃ問題ねぇんだろ」
「そうだ」
「俺がやる。文句はねぇはずだ」
キュと、その瞳に宿した覚悟。
「…壁外調査に、エレンは同行させる。必要な時には巨人化もしてもらう。それが条件だ」
正直、身重な妊婦であるエレンを壁外へ連れて行ったところで、足手まといになる可能性はある。
妊娠が発覚してから巨人化したことはなく、どうなるか、不明のままだ。
それでも、人類にはエレンが必要だ。
「了解だ。エルヴィン」
リヴァイは苦虫を噛み潰したような顔で頷くと、部屋を後にした。
残されたエルヴィンは椅子に深く座り、ため息をついた。
できることなら、私だって2人の子の誕生を喜び、この胸に抱きしめてみたかった。
だが、それは許されない。
調査兵団団長として、許すわけにはいかなかった。


「あ、おかえりなさい。兵長」
リヴァイが古城に戻れば、エレンは笑顔で出迎えた。
パタパタと小走りに。
リヴァイの側でつまづく。
「あっ」
転ぶ。と思った瞬間には、リヴァイの手によって支えられていた。
「気をつけろ。テメェ一人の身体じゃねぇんだ」
「はい。すいません。兵長」
返事をし、体制を立て直すエレン。
一目でそれだと分かるほど大きくなったお腹を愛おしそうに撫でる。
「…兵長、やはりこの子の事での招集でしたか?」
「ああ」
「…団長は、なんて?」
「………始末しろと。」
リヴァイの言葉に、お腹を撫でていたエレンの手が止まる。
「…そう、ですか」
予想はしていた。
そもそもエレン自身でさえ、リヴァイが監視をしているから命があるのを認められているのだ。
巨人化する力を人類のために使うことを条件に。
でも、それでも。
「兵長、俺…」
「待て。早まるな」
顔を上げたエレンの言葉を、リヴァイは制す。
「…まだ、決まったわけじゃない。巨人を駆逐すりゃあ問題ねぇんだ。
俺がやる。
…テメェにも同行してもらう事が条件らしいが」
「え?待ってください。それって、でも兵長が危ないんじゃ…」
「自分の大切な者を守れねぇくらいなら、俺の命なんざいくらでもくれてやる」
リヴァイの言葉に、エレンは息を飲む。
「…それって、兵長は死ぬつもりだということですか?」
エレンの声は少しだけ、震えている。
リヴァイはグイッとエレンを自分の胸元へ抱き寄せた。
「違う。んな事言ってねぇ。
俺は、お前たちを守りたい。その為ならなんだってする」
「嫌です。兵長のいない世界なんて、俺は耐えられません」
「…俺が死ぬと決めつけるな。俺のことがそんなに信用できねぇのか?」
ドクンドクンとリヴァイの鼓動が、エレンに伝わる。
エレンは首を横に振る。
信用していないわけじゃない。
ただ、自信が無い。
また、今回も選択を間違えたら…。
「エレン。お腹の中の子は、お前が守れ」
涙を流すエレンの頬を両手を添えた。
そしてそのまま唇を重ねる。
徐々に深くなる口づけに、エレンの脳がクラクラする。
夢だったらいいのに。
このまま2人、愛し合っていられたら…。
しかし、時間は残酷に過ぎ去って行く。


壁外調査。
先陣を切って一番前にいるのはリヴァイ兵長だ。
そして、中央後方に、エレンはいる。
この陣形の中でもっとも安全といえる場所ではある。
しかし、今回の作戦は、全巨人の殲滅にある。
戻って来られないかもしれない。
いや、必ず、戻る。
お腹の子と共に。


to be continued…?
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