小説

□兵長生誕2013
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今日はクリスマスイブ&リヴァイの誕生日の前日でもある。
最近付き合い始めたエレンにとってはとっても大切な日だ。
「出来た」
顔に生クリームをべっちょりつけて。
塀に囲まれたこの世界で、どこから手に入れたのか大量の砂糖、小麦粉、卵など貴重品ばかり。
これだけ集めるにはエレンの財布はとても寒いものとなってしまったが、悔いはない。
もともとつかうあてもない金だったのだ。
これらを使い、エレンは一つのホールケーキを作り上げた。
真っ白な生クリームの壁を前に、チョコペンを手に動きを止める。
「なんて書こうかな?"誕生日おめでとうございます"…、じゃあ面白くないか。
兵長愛してます、ってうわ、恥ずかしい」
ニヤニヤしながらエレンは悶絶する。
はっきりいって、周りで見ている方が恥ずかしい。
が、とりあえずまわりに人はいなかった。
いや、困った顔をした女性が1人。
たまたま前を通りかかったペトラだ。
「エレン…、これ、どうしたの?」
「えっ、うわっ、ペトラさん。すごいでしょう。兵長のために作ったんです」
頬を赤く染め、にこにこしながらエレンは話した。
それはもう、幸せいっぱいな顔で。
しかし、ペトラは浮かない顔だ。
そんな様子に、エレンは少なからず不安を覚えた。
ペトラさん、どうしたんだろう?
あ、もしかしてケーキ食べたかったのかな。
女の人は甘い物が好きだもんな。
エレンの中で自己完結。
エレンは口を開こうとしたが、ペトラの方が早かった。
「エレン、兵長は甘い物、嫌いなのよ」
「ペトラさん一緒に…、って、ええっ!?今、何て?」
エレンは今の言葉は空耳だと思った。
いや、思いたい。
しかし、沈痛な面持ちのペトラがそれを許してはくれない。
「昔、一緒にケーキを食べる機会があったんだけど、…戻したの」
「え?」
「吐いたのよ!!あの!兵長が!!」
「えええぇっ!?」
吐いた?
潔癖症の塊で、暇さえあれば掃除、いや、なくても掃除で、一人で一個旅団並みの実力を持つ人類最強が、ケーキごときに屈したと?
「どどど…どーしましょー、ペトラさん」
真っ青になって、動揺するエレン。
「大丈夫よ!甘くなければきっと大丈夫」
「唐辛子いれてみましょうか。ハバネロの方がいいかな。
いや、いっそわさびでも…」
「落ち着いて!エレン。からしもあるわよ」
もはや罰ゲームである。
しかし、ケーキを甘くないものに変える使命に燃えたエレンとペトラは必死だった。
「おい、テメェらなにしてやがる」
びくぅっ。
2人は背後からドスのきいた声音で話しかけられ、飛び上がるほど驚いた。
言わずとしれたリヴァイだ。
「甘い匂いがすると思ったら、なんだこれは」
眉間のシワがいつもより二本多い。
ヤバイ。ご立腹だ。
エレンは素直に土下座した。
「誕生日おめでとうございます、兵長。
すみません、俺、兵長甘い物嫌いだって、知らなくて…」
最後は声が震えている。
そして、ぐすぐすと鼻をすする音も聞こえてきた。
「エレンは悪くありません。教えておかなかった私の落ち度です。
罰を与えるなら私に」
ペトラはエレンを背後に庇いながら同じようにぐすぐすと鼻を鳴らし始める。
こいつらはまったく…
そんな姿を見て、リヴァイは深くため息をついた。
リヴァイはつい、とエレンに近づき胸元の服をつかんで屈ませると、頬についた生クリームをペロリと舐めた。
「へへへ…へいちょ、何し…」
頬を抑えて顔を真っ赤に染めるエレン。
「甘ぇ」
ニヤリと笑うリヴァイ。
ちょっと、危険よ。
エレンが食べられちゃう。
あ、でもエレンは本望なのかしら。
悪い大人にいいように転がされてるようにしかみえないが。
そんな事を考えていると、ペトラはリヴァイと目が合った。
まぁ、とりあえず怒ってはいないような様子の彼にニコリと微笑みかけ、会釈をしてエレンに気づかれないよう、部屋を後にした。
パタン。
背後で扉をしめる。
ちょっと、羨ましい、かな。
エレン相手なら苦手なものも克服するのだろう。
「あ、ペトラ。ちょうどよかっ、ぐふっ」
「…オルオ、なにやってんのよ」
相変わらず舌を噛んで悶絶しているオルオをペトラは冷たく見下ろした。
「…いや、今日予定なかったら一緒に食事しないか?」
珍しく噛まずに言い切ったオルオに、ペトラは目を丸くする。
しばしの沈黙のあと、口角をあげ、頷いた。
「いいわね、エルドとグンタも呼んで、一緒にクリスマスパーティでもしましょうか」
「え、あ、いや俺は2人きりで…、いや、なんでもねぇ」
オルオの言葉に気づかないふりをして、ペトラは先へ足を踏み出した。

「兵長、くるしいです」
ぎゅっと、エレンを抱きしめていた手を、ようやく離すリヴァイ。
「あれ?ペトラさんは?」
「もう部屋に戻った」
「あ、そうですか」
何故か落ちる沈黙。
「あ、あの、兵長」
「なんだ?」
「その、俺、プレゼント。これしか用意してなくて…」
エレンの指差した先にあるのは一個のケーキだ。
「あぁ。心配いらねぇ。プレゼントならテメェ自身を貰う」
「え?俺自身?」
目を丸くするエレンの頬にそっと、手を添える。
「意味は、わかるな?」
リヴァイが低く耳元で囁けば、エレンはビクリと身を強張らせた。
えっと、俺自身ってことは、つまりは、そういうことだよな。
エレンはぎゅっと拳を心臓に当て、敬礼する。
「も、もちろん。この心臓、兵長に捧げます!!」
「色気ねぇ」
が、どうやらリヴァイはお気に召さなかったらしい。
眉を寄せ、腕を組んでしまった。
色気ないって、どうすりゃいいんだよ…
エレンは考えた。
そしてリヴァイは待った。
そして、エレンは両手を広げる。
ほんのり頬を紅く染めて。
「め、…めしあがれ?」
うわっ、何これ恥ずかしすぎる。
エレンは両手で顔を隠した。いや、隠そうとした。
がっと、腕をつかまれて、その唇に噛みつかれるように唇を重ねた。
クラクラする。
深すぎる口付けに、エレンは息を乱す。
「今夜は眠れると思うなよ」
獲物を狙う獣のような瞳に。
「望むところです。…俺が一番に誕生日の祝いの言葉を言うんですから」
エレンは獣の首に腕を絡めて答えた。

Merry Christmas & Happy Birthday


おしまい

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