頂きもの

□Dog eat dog
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あの目に

喰い殺されてみたいと思った。

『巨人どもを駆逐してやるっ!』

エレン・イェーガー…



「リヴァイ兵長!」

俺を見て、エレンが目を輝かせた。
満面に喜色の色。
パタパタと駆け寄ってきたエレンに小さく舌打ちをして背を向けた。

「兵長っ。」

「なんだ。」

『貴方が好きです。』

何をとち狂ったのか、そんなことを言い出したエレンに
思わず頷いてしまったのは、あの目が…
あの日見たあの目が焼き付いて
離れなかったからだ。

大概俺も、とち狂ってる。

それでも
あの目が、俺の心臓を撃ち抜いて
どうしようもなく惹かれて
コイツのもんになっても良いと

思ったんだ。

なのに、このガキは
巨人どもに対しては禍々しいまでの強い光を放つくせに
俺に対しては…

(イライラする。)

ヘラヘラ笑うな
ベタベタまとわりつくな

「いや、あの…」

俺の苛立ちを察知して、途端に尻尾を垂れた犬みたいになるエレンに

再び

舌打ち。

「用がねぇなら近づいてくんな。」

いつ、死ぬかわからないようなこの世界で
愛だ、恋だと浮かれてんじゃねぇ。

受け入れたのは…俺だがな。

「兵長…あの…今夜…俺のところに…」

消え入りそうな声で
俺の機嫌を窺うような目で。

「…気が向いたらな。」

苛立ちながら、そう答えたのは
まだ、俺の中にあの目が焼き付いて

消えないからだ。




「兵長…好きです。愛してます。」

唇を重ねて、俺をベッドに押し倒しながら
何度も何度も囁く。
蕩けそうな表情
うっとりとした瞳

ちゃんと俺の表情(かお)見えてんのか?

イライラ

すんぜ。

俺の肌に唇を寄せ
その位置が段々下がっていく。
ズボンに手を掛けた瞬間、俺はスルリと身をかわした。

「兵長…?」

「萎えた。」

はだけたシャツを直しながら
俺はベッドを降りる。

「あ…あの…兵…」

「じゃあな。」

呆然として
そして捨てられた犬みたいなすがるような目をしたエレンに背を向けて
唾液でベタつく肌に苛立ちながら
俺は部屋を出た。



「何、苛ついてるんだ?」

「エルヴィン…。」

「痴話喧嘩か?」

揶揄を含んだ笑みでそう言われて俺は顔を背ける。
コイツに言ったつもりはねぇが
気付いてる。
気付かれてることにムカつく。

「子供相手に、ムキになって、お前らしくないな。」

子供…確かにエレンはガキだ。
だけど
ただのガキじゃねぇ。
巨人化する、ってだけじゃねぇ。
殺意
憎悪
強い意志

アイツの胸に宿る強い光。

「ムキになんかなってねぇ。」

「そうか?」

「あんな奴、どうでも良い。」

本心から、そう思った。
あんな奴に一瞬でも心を奪われた自分自身にも腹が立って
そんな風に心を乱していることにも
苛立って仕方ないんだ。

「そうは、見えないけどな。…まあ、でもそれなら…」

エルヴィンが、俺の手首を掴んで
ニヤリと笑う。
艶を含んだ
底の見えない

笑み。

「俺の相手をするか?」

は?と眉を寄せてエルヴィンを睨み付けた。
何を言ってるんだ、コイツは。
心底思う。
付き合いは確かに長いが、コイツとそーゆー関係になったことなんか一度も…

「なあ、リヴァイ…」

ぐっ、と握られた手首に力がこもり
強く

引かれる。

寄せられた唇。
息が掛かるほど近くに。

ゾクッと背筋をかけ上がってきたのは

嫌悪

だった。

よせ、と突き飛ばそうとした瞬間、俺の体が後ろに引かれた。
なんだ?何が…と思った次の瞬間には、エルヴィンの体が後ろに飛んでいた。
見えた姿は

「エレン…?」

立ち上る炎が見えそうなほどの怒気が背中に浮かぶ。
エレンが、エルヴィンを
…殴ったのか…?

「お、おい…エレン…」

どんな事情があっても、上官を殴り付けるなんて…

「この人に触れることは許さない。」

相手がエルヴィンだとわかってるのか?
調査兵団の団長だぞ?

諌めようと吸った息を

飲んだ。
俺を振り返るエレンの
射殺すような瞳。

(その…目だ…。)

ゾクリ

高揚する。
俺に焼き付いて離れない、エレンの燃えるような瞳に。

エルヴィンが離した手首を
エレンが掴み
引いていく。
抗えない程、強い力。

「お…おい、エレンっ!…っ!」

部屋に投げ込まれ、そのままベッドに投げ込まれ
倒れこんだ俺の体に馬乗りになったエレンが俺の腕をベッドに張り付ける。

「…あの人のせいなんですか…?」

「…は…?」

何を言ってるのかわからない。
とにかく、一旦落ち着かせようと息を吐き

「あのな…」

開いた唇が塞がれる。
入り込んだ舌が、俺の口内を犯していく。
舌を絡め取られ、息も
出来ない。

「ふ…ぁ…」

漏れた吐息は苦しいはずなのに
艶を帯びて
…これは、俺の吐息か…。
体が

熱い。

「あの人のせいで俺から離れていこうとしてるんですか?」

俺を見下ろすエレンの目が熱を孕む。

(この目だ…)

焼き付く。
憎悪…殺意にも似た
強い

想い。

(この目に喰い殺されたいと思ったんだ…)

「…そうだ…っつったら…?」

口角を上げて
俺は言った。
エレンの表情がひきつる。
浮かぶのは

狂気。

ビリッと音をたてて裂けた俺のシャツ。
引き千切ったエレンが俺の首筋に噛みつく。

痛みと
快感と

恍惚。

「渡しません。絶対に。」

肌がヒリヒリする。
濡れた感触は流れる俺の血、か?

「渡すぐらいなら、貴方を殺します。」

ゾクゾクする。
どうにかしてる。
殺意を前に高揚するなんて。
だけど欲情してる。
抑えきれないほど…。

Sexは殺し合いに似てる。
喰うか
喰われるか。
支配するか
支配されるか。

喉の奥で笑いを咬み殺す。

それで、良いんだ。
甘い雰囲気や、穏やかな時間なんざいらねぇ。

生温い恋愛ごっこなんてくそくらえだ。

「てめぇ次第だな。」

ニヤリと笑いながら言った俺に
狂気の炎が覆い被さってきた。

「リヴァイ兵長…兵長っ…愛してます。貴方は俺のものですっ!」

暴力に近い愛撫が、俺の体に痕を残す。

それで

良い。

殺すつもりで俺を抱け。
憎悪と名を代えた愛情で俺を欲しろ。

いつか、俺はお前を殺すかもしれない。
俺はいつか、お前に殺されるかもしれない。

理性をなくして巨人化したお前を殺すのが先か
嫉妬に狂ったお前に殺されるのが先か

(俺を喰い殺せ…。)

(そうじゃねぇと、俺は、てめぇを…)

戦闘の時とよく似た恍惚の中で
俺はゆっくりと

目を

閉じた。



〜end〜

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