小説

□輪廻
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タバコの煙がゆらめく。
ゆらゆらと天井へのぼり消えた。
リヴァイには前世の記憶がある。
人を餌とする巨人を削いだ手の感触と、返り血の気色悪さですら、覚えていた。
今生きるこの世界には人を食う巨人はいない。
壁もない。
食料は豊富で、明日の命の心配をする必要もない。
リヴァイが、人類の希望を背負う必要もない。
悪くないとは思う。
しかし、物足りない。
愛しい人がいない。
海を見たいと言った。
乾燥した砂漠を、氷でできた大地を。
今なら何処へでも連れていけるのに。
この世に転生してから30年が経った。
かつて昔、愛しい人に会ったのはこの年だったか。
とてもまっすぐな瞳をして、見つめて来た彼を。
「あの、すいません。道に迷ってしまったんですけど。
体育館を教えて頂けませんか?」
初対面で話かけられるとはめずらしい。
心細そうな声に視線を向けた。
その視線の先にいた人物を確認して、リヴァイの動きが止まる。
そこにいたのは、かつて愛した、今なお自分が求めてやまない人がいた。
「エレン…」
ポツリとリヴァイから零れた言葉。
「?…俺、会ったことありましたか?」
不思議そうに見つめる金色の瞳に、ハッとする。
恋仲だったのは前世でのこと。
今は初対面だ。
どうやらエレンに前世の記憶はないようだ。
「あぁ、悪い。知り合いに似ていた」
「そうなんですか?偶然ですね。俺の名前もエレンっていうんです」
警戒心などまるでない。
リヴァイはぎゅっと、持っていた携帯灰皿にタバコを押し込めた。
その中に、自分の感情も一緒に押し込めて蓋をする。
「…新入生か?入学式がもうすぐだろう。案内してやる」
「あ、ありがとうございます」
背を向けたリヴァイに、エレンは着いて行く。
エレンが後ろにいる。
そう思うだけで、リヴァイの胸が熱くなる。
転生して、生きている。
巨人になる化け物ではなく、人間として。
「名前はなんていうんですか?」
「…リヴァイだ」
「ここ、広いですね。教室、覚えられるかなぁ」
エレンは、前世の頃より穏やかに見えた。
当然だろう。憎むべき巨人はいないのだ。
普通に友達を作り、笑い、明日もまた同じ毎日がくるのを疑うことはない。
よく笑うエレンに、リヴァイの頬も緩んだ。
体育館はこれほど近かっただろうか。
「エレンっ」
体育館に来ると、金髪の少年と、黒髪の少女がすごい勢いで駆け寄って来た。
「エレン、心配した。もう私のそばを離れないで」
「なんだよ、ミカサ。いつまでも弟扱いすんなよっ」
抱きつく少女を、エレンは力付くで引き剥がそうとする。
「ミカサ、エレンの首しまってるよ」
「アルミン、邪魔しないで」
どうやら現世でも三人は幼馴染のようだ。
これ以上リヴァイは必要ないだろう。
「また迷子になるなよ」
リヴァイはエレンの頭を撫でるとその場を去った。

「リヴァイー。遅かったじゃん。入学式始まっちゃうよ?」
盛大に手を振る女性、ハンジの隣のイスに腰掛ける。
「エレンがいた」
「えぇっ!?本当かい?まさか巨人になったり…」
「バカいうな。あるはずないだろう」
「ですよねー」
一瞬、瞳を輝かせたハンジはがっくりとうなだれる。
彼女もまた、前世の記憶を保持する数少ない仲間の1人だ。
「それで?せっかく会えたんだし.、愛の抱擁でもしたの?」
「何もしていない」
「何も?もったいないなー」
「エレンに前世の記憶はない」
「ふーん。でもさ、奪っちゃえばいいんじゃない?」
「…俺にその資格があると思うのか?」
「あー、でも、あれは…、仕方なかったことじゃん」
「俺はエレンが笑って、幸せに生きてくれるなら、それでいい」
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