小説

□輪廻
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どこかで、見たことがある気がした。
その顔を見た瞬間、心臓が跳ねた。
「あの、すいません。道に迷ってしまったんですけど。
体育館、教えていただけませんか?」
道に迷っていたのは本当のこと。
俺が声をかけると、彼はゆっくりと振り向いた。
眉間にしわをよせたまま、切れ長の瞳が俺とぶつかる。
「エレン…」
彼の口から発せられたのは、俺の名だった。
彼も俺を知ってた?
でもそのあとすぐ、知り合い似ていたと言われた。
なんだか、少し、寂しかった。
その名をよんだ時の彼の瞳がとても優しかったから。
俺に似ているという、エレンという人に嫉妬したのかもしれない。

「エレン、エレン?聞こえてる?」
「え?あぁ、アルミン。ごめん、聞いてなかった」
はっと、我に帰ると、ここは教室で。
アルミンとミカサが、俺の顔を覗き込んでいた。
俺が素直に答えると呆れたようにため息をつく。
「もうすぐHRはじまるけど、気分悪いようなら保健室いく?」
「?いや?至って健康だけど?」
「そう、ならいいけど」
俺はそんな顔色悪かっただろうか。
アルミンの問いに、俺は首をかしげた。
「エレン、あのクソチビ…、男に何かされなかった?」
「は?何かってなに?」
こちらもまた、意味不明な質問をしてくるミカサ。
「エレン、あの男のそばに近付かないで。私のそばにいて」
「いやいや、お前隣のクラスだろ。近付かないのも無理だって」
キーンコーンカーンコーン。
その時、チャイムが鳴った。
「あ、ヤバイ。ミカサ行くよ。エレン、気分悪くなったら保健室いくんだよ。わかったね?」
いいながらアルミンはズルズルとミカサを引っ張って行った。
2人は同じ隣のクラスだ。
おれは2人に手を振った。
チャイムがなり終わると同時に教卓側の扉が開く。
中に入ってきたのは、朝、道を尋ねた、リヴァイさんだった。
相変わらず不機嫌そうな顔をしている。
小柄な身体に似合わず、纏う怖そうなオーラに萎縮している生徒も少なくない。
もっとも、ホントに怖いらしいけど。
「出席をとる。名前を呼ばれたら返事をしろ」
低く、甘い声が、教室に響く。
「エレン・イェガー」
「はいっ…」
俺の名を呼ばれ、返事をした、だけだった。
俺の脳裏に走馬灯のように、巨人の映像が映った。
ガタァンっ、と大きな音がする。
俺は、倒れたらしい。
「エレンっ!?」
焦ったような、リヴァイさんの声がきこえたけど、俺は、夢にひきづられるように、意識を手放した。


人より何倍も大きな巨人が、人を食う。
壊れた瓦礫に挟まれ動けない女性が、ただ黙って巨人に喰われるとこれを、見ることしかできない。
あれは、母さんだ。
場面がかわっても、仲間が喰われる。
俺にもっと力があれば、力をつけたのに。なぜ俺はこんなに、弱い。
「俺にはわからない。自分の力を信じてみても、仲間の力を信じても、結果は誰にもわからないかった。」
そういった、背中。
とても、愛しくて、力強くて、だれよりも優しい。
俺はこの人の横に並びたかった。
重荷を背負わせたくなかった。
俺が彼を最後にみたのは、泣きそうな、苦しそうな顔。
そんな顔をさせているのは、俺だってわかってる。
貴方は優しすぎるから。
最後に、俺の命を背負わせた。
ごめんなさい。
こんな化け物を愛してくれて、俺は幸せでした。
どうか、生きて下さい。
そして笑ってください。
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