小説

□女の嫉妬は怖いよ
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めんどくせぇ。
目の前で着飾った女を前に、リヴァイはわからないように舌打ちをする。
国王の親戚の娘とか言っていたが、大きく肌を露出して、無駄にキラキラ輝く宝石を身につけていて。正直、そんな重そうな石、肩が凝るのではないかと思う。
その石一つの金があれば、どれほどの民を飢えからすくえるのだろう。
赤い口紅をひいて紡ぎ出す言葉など聞きたくもない。
しかし、エレンの話ともなれば話は別だ。
「今日は随分かわいらしいお嬢さんをお連れですね。
どういったお知り合いなのですか?」
「俺の女だ」
リヴァイがさらりと答えると、女は顔色を変える。
「…随分、若い方がお好みなのですね。色気より食い気という感じでしょう?」
「まぁ、そうだな」
リヴァイの脳裏に先程のエレンの様子が蘇る。
食事を差し出すと、驚きと共にしっかりと味わい、とても美味しそうに、幸せそうに食べていた。
いつでもあいつは、きちんと食い物を美味しそうに食べる。
だから、連れてきてやりたいと思ったんだ。
リヴァイはふっと表情を柔らかく、微笑んだ。
「…ずいぶん、お気に召していらっしゃるんですね。
でも私が見る限り、彼女は貴方には似合いませんわ。私の方が貴方を満足させる自信がありますわよ」
スッと瞳を細め、赤いドレスのスリットからスラリと足を出した。
「貴方が私のものになれば、パパにお願いして融資金額を上乗せしますわよ」
胸元の谷間を見せつけながら、リヴァイにすり寄った。



リヴァイさんなんて、口悪いじゃないか。
歯を折られるほど殴られたじゃないか。
目つきだって悪い。
でも、理由もなく殴るような人じゃない。
口の悪い言葉の裏にはいつだって、優しさがあった。
エレンの頭のなかではぐるぐると、ずっと、リヴァイのことを考えていた。
だから、気が付かなかった。
ついてきた先が何処なのか、いつの間にかひと気のない場所へと連れて来られた事に。
「着きましたよ」
「え?」
顔を上げた瞬間、背中をドンっと押された。そのすぐ後ろでガシャンと重い扉が閉められた。
しまっ…
エレンがどうにかしようと気付いた時にはもう遅い。
扉を振り返った瞬間、後ろから頭に重い衝撃を食らう。
たまらず倒れこむエレン。
その手を、紐か何かで結ばれ身動きが取れなくなってしまった。
頭を殴られたせいでクラクラする。
「貴方、リヴァイ様のなんなの?」
連れてきた女は冷たく、エレンを見下ろす。
その顎を掴み自分を顔を覗きこむ。
「ふん、まだガキじゃない。貴方どうやってリヴァイ様をたらしこんだの?」
「は?」
「リヴァイ様はね、皆のリヴァイ様なの。強くて気高くて、誰も寄せ付けない。…エリカ様以外、触れることは許されないの」
エリカ様?
初めて聞く名前で、知らない名だがなんとなく、さっき兵長に寄っていた女かな、と思った。
「エリカ様のお父様は国王様の親戚なのよ。だから、食事やお金にはもちろん困らない。
そしてエリカ様はとても美しいの。
エリカ様ほどの地位と美貌の方でなければ、リヴァイ様の横に立つ資格はないのよ」
何を言ってるのだろう。この人は。
エレンには理解不能だ。
地位とか、金とか、美貌とか。
「…あんたこそ、兵長のなんなんだ?」
「なんですって?」
「兵長は地位とか見た目で人を判断したりしない。あんたは兵長の何を見てんの?」
エレンの言葉に、女は絶句する。
その様子に、エレンははぁとため息をついた。
「俺が連れて来られた理由がわかった。あんたみたいに、見た目と地位しか見ていない奴らに、触れられたくなかったからなんだな」
言いながら、エレンはまっすぐに女を見つめた。
その視線はひどく冷たく、蔑むように。
「この紐を外せよ。俺は兵長の所へ帰る」
離れちゃいけなかった。
自分は必要だから、呼ばれたんだ。
エレンは自分の行動に唇を噛み締めた。
「…ふざけないでよ」
女は震えながら、拳を握りしめる。
「あんたなんかに何がわかるっていうの!?」
悲鳴のような叫び声でいうと、女は鬼のような形相でエレンを睨みつけた。
「ねぇ、あなたなら知ってるわよね?リヴァイ様がどれほど潔癖性か。
なら、他の男の手垢がついた女を側におくのかしら?」
スッと奥から何人かの男達が姿を現す。
どれも屈強で、筋肉逞しく、力に自信がありそうな男達だ。
何をするつもりなのか、エレンはわかりたくなかったが、男達の下衆な視線のせいで一目瞭然で嫌になる。
「あんた、今までも兵長の側に寄る女にこんなことしてんの?
最低だな。」
エレンは痛む頭を振ってなんとか立ち上がる。手は結ばれて使えないが、まぁ、仕方が無い。大人しくするつもりはなかった。
「……いつまで、強がりを言ってられるかしら?
やっておしまいなさい」
男達は女の声を合図に一斉にエレンへ飛びかかった。
エレンは後ろへ飛び、男達から距離を取ると壁に足を着け、その反動で男たちに向かう。
伸びてきた手を身を捻って躱し、その頭上に、かかと落としを決める。
そのまま着地すると横にいた男の鳩尾に蹴りを入れた。くの字になった所を、縛られたままの拳を使って打ちのめした。
このくらいの実力程度なら、全員倒してこの場を切り抜けられる。…はずだった。
「へぇ、なかなか威勢のいいガキだな」
いつの間に、そこにに立っていたのだろう。
気付いた時にはビリッと体に電気が走る。
エレンは、その場にパタリと倒れこんだ。何故か指一本動かすことが出来なかった。
「動けないか?まぁ、そうだろうな」
そう言った男の手には、バチバチと電気が走る装置。
あれは、スタンガン?
朦朧とした頭で、エレンは認識する。
男はコツコツと近づきエレンの髪を掴み上げる。
ズルリ。
ウィッグだった長い髪はエレンを伴うことなく、外れた。
男の目が、驚きに見開かれる。
「ほう。これはこれは…」
ガッと無造作に髪を捕まれ、立たされる。
「エレン・イェガーじゃないか」
力の入らない体で、なんとか瞳を開けて、目の前にいた男を見た。
その視界に飛び込んできたのは、馬の紋章。
「憲兵団…っ」
巨人を殺す力を持ちながら、国王を守るため一番安全な場所で堕落して生活する兵士。
そして、エレンの存在を解剖し、抹消しようとする組織の人間。
憲兵団の男はエレンの首を掴むと、このまま壁に押し付ける。
「いっ…痛ぅ…」
「ふん、苦悶に歪む顔はなかなかそそるな」
「なん…で、?」
「まぁ、お嬢様の護衛も仕事なんで。美味い酒も飲めるし?」
言いながら笑う男からは、なるほど、酒の匂いも漂ってくる。
男はエレンの身体が動かないのをいいことに、その唇を堪能する。
その時、カシャっという音と、光が当たる。
「写真とるのか?」
男はエレンの唇を解放し、女を振り返る。
「当然でしょ。証拠が残らなきゃ意味がないもの」
「相変わらず、いい性格してんな」
男はわざとらしく肩をすくめた。
「俺の顔は写らないようにしてくれよ」
「臆病者ね。わかったわよ」
エレンの前で交わされる会話。
それはあまりにも自分勝手で、惨い話。
ちくしょうっ、こんな奴らに好きにさせてたまるか。
痺れて動かすことが難しい身体を、なんとか動かし、手の紐を外そうと試みる。
チリチリと痛みが伴うが、そんなの構ってはいられない。
すると、願いが通じたのかスルっと紐が解け、エレンの手が自由になった。
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