novel

□Method of love
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まだ伊東が入隊して間もない頃だ。
土方は、勿論伊東という新人隊士のことは知っていた。鳴り物入りで入隊してきたのだから。
北斗一刀流免許皆伝。
恐らく沖田と互角に張り合える腕前だ。
だが、未だその剣を見る事は出来ないでいた。
その矢先。
松平が将軍を連れて視察に来ることになり、御前試合でもやれ、と命令された。
近藤と土方は仕方なく参加者を募ったが、勿論通常の仕事がある為、なかなか集まらなかった。
加えて、隊士達は誰もが土方や沖田とは戦いたくないと思っていた。
もし当たれば必ず負けると分かっていたからだ。お飾りとはいえ、将軍と警察のトップの前で恥を晒すのは皆御免だった。
大した人数も集まらず頭を抱えていたところに、伊東が名乗りを上げたのだ。
『是非とも僕にも参加させて下さい。但し、相手は土方副長でお願いします』
酷く高飛車な物言いに流石の近藤もいい顔はしなかった。
近藤が遠回しにその事を諌めると、伊東は反省する様子も無くはっきりと言い切った。
『必ず、いい試合にしてみせますよ。』
更に言葉を続ける。
『副長。僕を殺すつもりで試合して下さい。さもないと、負けますよ』
土方は血管が切れるのではないかと思う程頭に血が昇った。新入りにここまで言われて黙っていられるほど土方は大人しくない。
『上等だ!』
今にも斬りかかりそうな勢いで立ち上がる。だが伊東はそんな土方の態度など気にもせず、失礼、と、とっとと退室してしまった。
土方はその日1日腹立たしくて仕事にならなかった。
そして、御前試合当日。
土方は押さえ込んできた腹立たしさを全てぶつけるつもりで伊東と向き合った。
だが、すぐにそれどころではなくなった。
審判である近藤の掛け声がかかると、あっという間に伊東が接近してきた。更に怒涛の攻撃を仕掛けてくる。
土方は防戦一方にならざるをえなかった。
振り下ろされる木刀はスピードが速い上に重い。何とか身体をかわしてもすぐに次の手が飛んでくる。木刀で受けてもそのまま押されてしまう。息が上がり木刀を握る手が痺れた。
歯を食い縛り猛攻に耐えたがほんの一瞬集中力が切れた。伊東がそれを見逃すはずが無い。
掬い上げるように土方の木刀を弾き飛ばしそのまま木刀を土方の頭部に振り下ろす。
だが、その木刀が土方の頭部に当たる事は無かった。直前で伊東の木刀はピタリと止まったのだ。
土方は呆然とその木刀を見つめた。あまりのことに瞬きも出来なかった。
背後では飛ばされた土方の木刀がカラカラ、と音を立てて落ちた。
暫く無音が続いた。
土方が負けるなど誰も思っていなかった。それは審判を務めた近藤も同じ事だった。
その状況をボンヤリと見ていたが、ハッと我に返り右腕を上げる。
『そこまで!』
伊東はゆっくりと最初の位置に戻り、礼をした。
頭を上げた時の伊東の顔は一生忘れないだろう。
目を細め、口元には勝者の笑みを浮かべていた。
完全に土方を見下した笑みだ。
そのまま土方に声をかける事も無く伊東は会場を後にした。
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