novel

□Method of love
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思えばあれが伊東の出世の足がかりになった。
メキメキと頭角を現し、そしてあっという間に参謀まで伸し上がった。
対する土方は、あれ以来伊東から目が離せなくなり。
そして…。
敵対心はいつしか恋心に変わった。
「見惚れたか?」
気がつけばニコニコした伊東が側にいた。
「何言ってやがる。」
ほらよ、と眼鏡を渡す。
土方が仏頂面をしている事に気付いた。
「どうした?」
「厭なモン見せやがって。思い出しちまった。」
「何を?」
自分から負けた試合の話を切り出すのは不愉快だったが、黙っていても追及されるのは分かっているので素直に答えた。
「…御前試合」
あれか、と伊東は苦笑しながら納得した。
「今でも根に持っているのか?」
「ったりめぇだ。あんなの初めてだったぜ。」
伊東から顔をそらし、心底悔しそうに話す土方を見て、伊東はまさかの提案をした。
「では、今から再試合といこうか。」
「あぁ?」
言っている意味が分からず伊東を横目で見る。
「もう1度今から試合をしようじゃないか。」
何故か伊東は少し大きな声で言った。
何人かの隊士がその言葉を聞きつけた。
「何言って…」
大きく目を見開いて反論しようとした土方の言葉は隊士達に遮られた。
「伊東さんと副長が試合するらしいぜ!」
隊士達は後片付けを途中で放り投げ、伊東と土方の周りに集まった。
「テメェ、態とデカイ声で言いやがったな?」
土方は引き攣った笑みを浮かべた。
「邪推だよ。まぁ、僕達の試合を見れば、隊士達の勉強にはなるとは思ったがね」
そこに近藤が、何事だ?と近づいてきた。隊士の1人が説明する。
「じゃあ俺が審判だな」
この状況を止める事も無く、率先して審判を名乗り出るあたり、近藤は恐らく御前試合の事など忘れてしまっているのだろう。
恨みがましく近藤を睨むと、伊東が土方の逆鱗に触れる一言を発した。
「隊士達の前でまた僕に負けるのが怖い?」
その言葉に土方は表情を消した。鋭い目つきで伊東を正面から見据える。
「殺すつもりでこい」
土方の低い声が道場に響いた。
「誰か、僕に木刀を」
すかさず近くにいた隊士が木刀を渡す。
伊東と土方はゆっくりと距離をとり、構えた。
その間に近藤が立ち、右腕を掲げて声を上げた。
「始め!」
2人は同時に床を蹴り相手に向かっていった。木刀がぶつかる音と、それを上回る歓声が道場から沸き上がる。



甘い時間を過ごすのもいいけれど。自分達はそれだけでは満足出来ない。
張り詰めた空気を共有する快感。
時にそれは性的快楽を上回り、自分達を高みへ運んでくれる最高の時間となる。
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