novel2

□月の輝く夜
1ページ/2ページ

澄み渡った空気。くっきりと空に浮かんだ満月の月明かりだけが頼りの深夜。屯所の道場の縁側に座り込んで外を眺めている人影がひとつ。
縁台の前には親猫が自慢げに子供を連れて集まっていた。ふと、ある親子に目が行った。
「ん?新顔だね。自慢しに来たのかい?おいで」
嬉しそうに猫へ話しかけて手を差し伸べる。猫も答えるようにニャーニャーと鳴き声を上げて縁側へ上って来た。野良にしては人懐っこい。
母猫は真っ黒だ。子猫は2匹。1匹は母猫に似て真っ黒。もう1匹は明るい茶色だ。父親に似たのだろう。
子猫は少しの間、母親の後ろで警戒心の眼差しを向けていたが、母親が伊東の膝の上に乗ったのを見て、警戒心を解いて左右の膝頭にそれぞれ身体や顔を擦り付けた。
日中の忙しさを癒してくれる数少ない楽しみ。
しかも今は繁殖期だ。子猫も産まれる。
猫は家に付くと言う。新しい家を見つけるまでの束の間。
子猫の頭や喉を撫でていると、ゴロゴロと鳴らして指に耳や鼻を擦り付けてくる。こんな仕草が愛らしくて堪らない。
足音が近づいてきた。猫達は一瞬身体を強張らせた。だが
「大丈夫だよ。大丈夫」
という伊東の言葉を理解したのか、それとも口調が落ち着いていた為か、慌てて逃げるようなことはしなかった。伊東には足音の主が誰なのか分かっていた。
「やっぱここかよ。風邪ひくぞ」
片手に羽織り、片手に灰皿を持って土方がのんびりと現れた。
ホレ、と言って伊東に羽織を投げかけると、猫達が驚いて縁側へ飛び降りた。
「ありがとう、と言いたいところだが…猫が離れてしまったよ」
苦笑いをしながら土方が用意してくれた羽織を纏う。
「そりゃ悪かったな」
悪びれた風もなく、土方は伊東の隣に座り、煙草に火を点けた。ゆっくりと煙を吐き出す。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ