短編
□Worry about love
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――最近、君を殴りたくて仕方ない。
Worry about love
「……は?」
随分と気温も上がり、汗ばむ日も珍しくない季節になった。今日も空は晴れ渡り、Tシャツ一枚でも充分暑い。
しかし、今身体に伝う汗は決して暑さのせいではない。どちらかというと冷や汗だ。
憩いの場である自室で、目の前にさも当然に不法侵入してくる男――六道骸は、見下しながら「殴りたくなる」とほざきやがったのだ。
「いや意味分かんないから」
「…何故でしょうね、君と顔を合わせる度に、殴りたい衝動に捕らわれるのです」
「本当に何故でしょうね。毎度殴られるこっちが聞きたいよ」
昨日は右頬へ一発フックを食らっていて、その名残か未だに右頬が痛い。超直感とやらもこう言うとき使えないとか本当に無駄な能力だ。
「なので、今日も殴りに来ました」
「来んで良い!頼むから帰れ!!」
無表情で淡々と、しかしどことなく困ったように溜め息をついたり。
ちらり、視線が合った。
ああ、コレはヤバい。来る。超直感が訴える。
しかし身体は思考とは反面動こうとしなかった。
もうそこからはスローモーションで見えた。
骸の理解不能な行動はいつもと同じパターンで右腕を振り上げ、そのまま俺の左頬にクリーンヒット。今日は右ストレートか。
殴られた、と認識した瞬間から痛みが襲った。
「ぅぎゃあああああああ」
何故、どうして、俺が何をした。
いくら殴られ慣れているとはいえ、痛いもんは痛い。いざって時に動かないこの身体が憎い。
「……ふぅ、スッキリした。では、Arrivederci!」
この男…!
ぶちかますだけぶちかましたら、スッキリした笑顔で消えていった。
毎度そうだ。満足するだけしたら帰る。
なんで俺の周りには自分勝手な人間がこんなに多いんだ。
左頬を押さえながら、そんな事を思っていたら、空が曇りだして雨が降ってきた。
にわか雨かな、なんて呟いていたら無性に虚しくなってきて、痛む両頬をさすりながら来た道を引き返した。
「…………もう帰ろ」
もう色々と、投げ出したくなった。