記念小説

□雪が溶ける前に
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恋することってこういうことなんだ、と改めて実感した。






雪が溶ける前に








『一ヶ月後に就任式が決まった』


 リボーンの口から伝えられたその言葉で、夢から現実に引き戻されたような錯覚と、目眩がしたのを覚えている。


 ボンゴレボス就任の日程が決まった。


リボーンを伝ってだが、いち早く俺の元にも伝わった就任式の日程。
その時の俺は、ああいよいよ俺もマフィアのボスか…、と他人ごとのように呟いていたのを覚えている。
しかしそれは同時に、平和な時間の終止符を打てと言っているようにも聞こえ、もう抗えないのだと、ただ切なく胸を締め付けた。


 一ヶ月、それは長いような短いような。急に言われた事だから、また整理がついた訳ではないが、リボーンから大まかに説明された事を思い出し、ベッドから起きて出掛ける準備を一通り済まし、昼下がりの街へと駆け出した。

 
何をすれば良いのか、当初の俺には分からなかったが、今はなるべく出掛けるようにしている。
いつも何気なくある街だが、もう来れる機会が無くなるとなると、恋しくなってなのか、目に焼き付けるかのようにこの平和な街を見渡していく。

本部も本来なら直ぐにでも就任してほしかった筈。
これは猶予。平凡な世界で生きていた俺への…俺達への猶予なのだろう。
俺は一つ、溜め息をついた。


「そろそろ、けじめをつけなきゃな」

そう呟いたのは、既に就任一週間前の頃だった。




 1ヶ月、その間に別れは言っとくべきであると判断し、京子ちゃんやハルのもとにも行った。
彼女も流石エリート大学生といったところか、中学の頃の面影を残しつつ綺麗に育ったものだ。

駅に近い場所にある喫茶店の中。突然俺を呼んだハルは、眉を潜めて黙り込み、俺の手を取った。


「ツナさん、デートしましょう!」

「で、デート?」


突然の申し出に狼狽える俺をよそに、彼女は立ち上がり、俺の手を引きながら言った。


「ツナさんには、思い出作ってもらわなきゃ」


満面の笑みで返してくる彼女に、つい嬉しくなって小さく笑った。
突然のサプライズを作ってくれる、そんなハルに出会えてよかったと、改めて思った。



 
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