長編

□愛しき君よ
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俺の大切な人が、

みんな、

みんな、死んでいった。

生温い血の海の中、俺だけが生きていた。

火薬の焼けた臭いと、血の臭いと、様々な腐臭が鼻から入り、吐き気がした。
でも、それ以上に、絶望に苛まれた。

血だらけの体で、地べたを這いずって、あの人のそばに行った。

倒れた中に、俺の大切なあの人もいて、
血まみれの手で貴方に触れれば、すでに冷たくなっていた。


―ああ、ああ、死んでしまった。
貴方まで、死んでしまった。
俺のせいで、死んでしまった。



目の前がぼやけ始めた。
ああ、俺も死ぬのだろうか…。

俺も、貴方の元に行けるかな…。


どんどん重くなっていく瞼、体から力が抜けていき、目の前が真っ暗になった。
微かに聞こえる自分の心音と、雨の音さえ、遠ざかっていった。

そして何も、聞こえなくなった。


最後に思う事は、貴方のことと、



みんなの死を止められなかった後悔だけだった。





『願いを叶えてやろうか』





声が聴こえた。

誰かの声が。



『望むのなら、叶えてやろう。対価とともにな。』



(対価…?)



『さあ、願え。どうして欲しい?』



(俺は、)



みんなを助けたかった。
こんな、死ぬ運命にだけにはしたくなかった。
間に合うのなら、みんなを助けたい。


(欲しい。みんなの運命を変えれるだけの時間が、)



『ほう、』



(俺はどうなっても良い、ただ、こんなところで死ぬ運命にだけはさせたくないんだ。)



『…貴様は面白い奴だ。そんなにも助けたいのか、人間を。』





次の瞬間、懐かしい光景が目の前に広がった。
重たかった瞼も嘘のように軽く、目の前に映るそれは実家の自室の天井だった。








愛しき君よ



 
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