長編

□そらにうたう
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酷く綺麗な声、殺気混じりの刺さるような視線、しかし少女はそれでも尚、無表情だった。
冷や汗一つ流さず、恐怖心などなかった。

コツリ、と足音がこちらに近づいてくる。
足音は一人、気配も一人、少女はまだ闇に慣れない瞳の視線を、目の前で止まった男にあげた。


「っ、?」


途端に首もとに冷たい感触。
鉄特有の冷たさと、肌についた液体。
微かに香る血の臭いに、少女はこれは血だと確信した。
その瞬間、冷や汗が一筋頬を触れる。


「ねえ、聞いてる?君、誰?」


男の視線が強くなる。


(…殺される…!?)


男が何かを振り上げる気配がして、少女がとっさに動こうとした瞬間、目の前が明るくなった。


「っ、」


少女は眩しくて瞼を閉じてしまった。
しかし、体には何も衝撃も無い。
恐る恐る瞼をあげれば、少女の目が一瞬にして見開いた。
目の前にいたのは想像していた人物像より若く、そして綺麗な黒髪に白い肌、漆黒の瞳の男性。


(…なんて、きれい…)


そして男も目を見開いていた。
腰まである長い琥珀色の髪の毛、絹のようにきめ細やかな白い肌、なんて綺麗なんだろうか…、男は一瞬動きを止めた。



「――ここに居やがったか、恭弥、」



突然の声に、二人同時に我に返る。


「…貴方か、」


恭弥と呼ばれる男は振り返る。
少女も視線だけを其方へ向けた。
視線の先には金髪でこの少女同様癖なのか跳ねた髪の毛に鳶色の瞳の男、そして後方には黒いスーツを纏ったメガネをかけた男が一人、
少女がまじまじと見ていると、金髪の男がこちらに気付いた。
そして気付くなり驚愕した。


「ちょ!なんつー格好で!…恭弥、お前トンファーで殴る前に何か羽織らせるとかしろ!」


金髪の男は足早に少女に近づき、自分の着ているジャケットを羽織らせた。
そして近づくなり気づく、


「こりゃあ…」


少女の四肢の傷、太もも、股、そして輝きを失った淀んだ瞳。
そしてまわりの男の格好。
金髪の男はジャケットの上から肩を掴み、少女に問い質す。


「嬢ちゃん、何があった…!」


「……見たまんまのこと。」


少女の言葉に、言葉が詰まる。


「……っ、ここで一体何が起きてる、」


金髪の男がそうぼやくと、少女はまるで全てを答えるかのように口を開いた。


「人体実験。
私達は研究所の人達の実験体、…そして愛玩具だよ。」




 
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