雲綱♀短編
□Lost in admiration of you.
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――同時刻。
雲雀は短く二行で済まされた手紙を手にして珍しく狼狽えていた。
手紙の内容はこうだ。
俺の可愛い教え子をお前にやる
今夜そのまま持って帰れ
どういう風の吹き回しだ。と、雲雀はその文章を幾度となく読み返す。
確かに嬉しいのだが、内容が内容だけに、これでも立派な思春期真っ只中の青少年にはどうやっても深読みしてしまう。
自分に追い風が訪れているのだろうか。雲雀は手紙をデスクに置いて、大きな溜め息をついた。
そんな雲雀の異変に気付いたのは報告書を届けにきた草壁。いつもとは余りに違う雲雀に、つい声を掛ける。
「どうかしましたか?」
「草壁…、好きな子を今夜お持ち帰り出来たら、君ならどうする?」
「は…?」
草壁は狼狽える。何を言っているのだと、突然の問い掛けに草壁は答えられなかった。
――そして、約束の時間が訪れる。
二人の気配がして、応接室のドアの開く音がする。雲雀はドアに視線を移す。そこには私服の綱吉と、いつも通りのスーツ姿の赤ん坊ことリボーンがいた。
雲雀は綱吉の姿を見るなり心拍数が跳ね上がる今の今までこの後のことを考えていたのだ。今や綱吉を直視すら出来ない。
「待たせたな」
ちゃおっす、とリボーンはお決まりの挨拶をしながら、そんな雲雀を見て口を緩ませる。
「あ、やぁ、赤ん坊」
雲雀は平常心を保とうとしていたが声が上擦った。かなり動揺しているようだ。
綱吉はいつもと様子が違う雲雀を見て首を傾げる。何をそんなに焦っているのか綱吉には検討もつかなかったし、これから自分がどうなるかも知る由は無かった。
「リボーン、ここまで付いてきてあげたんだから、私はもう帰るね。邪魔するのも悪いし」
どうせドンパチするんだろうから、とばっちりを受けない内に帰りたいのが本心だが、リボーンを前に本心を出すと後々恐ろしいのでそれは口に出さなかった。
しかしリボーンはそんな綱吉を帰らせる訳にはいかなかった。綱吉には話してない、ビックイベントを口にして綱吉を止める。
「おいツナ、お前は今日雲雀んちに行け」
「え、…はあ!!?」
これには綱吉も吃驚で、最初こそ何を言われたのか理解できなかったが、持ち前の直感で徐々にうっすらと理解し始めた。
「まさかお前…雲雀さんに渡したいものって…」
「お前だ、ダメツナ」
やっぱりー!とか、嘘だー!とか、言葉にならない叫びが瞬時に頭の中を駆け巡る。一度も聞かされなかった(リボーンにとっては聞かせるつもりはなかった)話に、綱吉は身を凍らせた。
「う…、うそだろ……雲雀さんの…家!?」
(これはもしや一晩掛けて咬み殺されて来いって事ですかリボーンさん!)
綱吉はちらりと雲雀を見た。しかし瞬時に目を背けられる。
(機嫌悪い…?嫌われてる…?)
どっちにしろ状況は最悪じゃないか!と、今の雲雀がただの照れ隠しなシャイボーイだと知る由もない綱吉は一人膝をついて唸っていた。