短編

□Stare at me
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ねぇ、こっちを見てよ







Stare at me







 どうも最近おかしい。
胸あたりがムカムカしたり締め付けられたりする。

雲雀は学ランをはためかせて、自ら伸した人間ピラミッドの上で眉を潜める。

病院に行ってもとくに異常は無く、その症状も発症したりしなかったりまばらだ。
特定の時だけだ。
発症するとき必ず視界の中には、君がいた。


(じゃあ、君のせい?)


雲雀は手についた血を拭い、ふと、手を止め見つめた。
それは、雲雀ととある草食動物との記憶。


―偶然だった。偶然触れてしまった君の手。
その手の温度は、とても温かかったのを覚えている。

手を広げ、その時の記憶を蘇らせるように思い出す。

それは空も高く、空気が乾燥しているとある冬の日の出来事で、
また使いっぱしりにされてたあの子が僕の目の前で盛大に転けたのだ。
何だか苛ついて、手を伸ばして彼の手をとり引っ張り上げた。
――驚愕した。なんて軽い体。
そして、その手から伝わる体温が、とても温かかった。


「ひっ、ひばりさ……っ!す、すいませんでした!!」


僕の顔を見るなり、頭を下げて走り去った。速い。そして良い度胸だね。
しかし僕は追うなんて事を考えずに、触れた手を見つめた。
この寒い冬の時期なのに、温かかった。


「子供体温。」


ぼそりと呟けば、自然と顔が綻ぶ。

それからだ、それからこの症状が発症したのは。


(一体何だって言うの。)


モヤモヤとわだかまりばかり増えていく。
書類整理の仕事にもなかなか手がつかず、仕事に支障がもたらされてきた。

雲雀は一度溜め息をついて、気分転換に窓を開けた。
そしたらちょうど体育の授業なのか、グラウンドに生徒がいた。


(……あ、)


ふと視線がいった。
あの子だ。
その瞬間、胸あたりに違和感。また発症したのか。


「あ、」


視線を戻せばちょうどあの子が転ぶ場面だった。

雲雀はクスリと微笑する。
そして顔を綻ばせる。
しかし次の瞬間、その微笑も消える事になる。


(――あれは、)


転けた彼に近寄ってきたのは、獄寺隼人と山本武だった。

野球馬鹿と忠犬か…。

雲雀の顔がみるみる不機嫌になる。
そして胸がムカムカとして、酷く苛ついた。


 
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