短編集

□『今は』
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                ――― 夢をみた 昔の夢


                優しい笑顔が 遠く離れていく

                繋がれた 動かぬ手と足


                いつも屍の中で生きていた
                傍から見れば それは地獄のように思えるかもしれない

                生きる為にはそれしかなかった
                嫌な臭いも 気味の悪さも じきに慣れた

                時折 俺と同様に 屍の持ち物を漁りにくる奴らが居た
                奴らは子供だからといって容赦はしない
                己の身を守る為に 幾度となく剣を振るった


                いつの間にか 空はいつも灰色だった


          

                そんな中 アンタはやって来た

                一筋の光
 
                初めて触れた 温かな背中


                俺の世界を変えてくれた
                灰色の空が消えて 澄み切った青い空になった


          
                なのに・・・


                もう居ない
                この世界の何処にも


                何度も悔いて 何度も泣いた


                俺の中に居る 白い夜叉
                憎悪は深い深いところにしまった



                これでいいんだ

                今は これでいいんだ




                「・・でっかくなったら 一緒に酒でも呑みたかったぜ」



                なぁ・・センセイ









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