Side*story

□悟飯、兄になる
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【孫家きょうだい番外編】

  悟飯、兄になる





父さんを殺したのは、僕だ。あの時、調子に乗らずにセルを仕留めていればお父さんは死ななかったはず・・・

毎日毎日そう思わずにはいられなかった。例え誰も気にしていなくても、自分の中では暗い想いが心の奥にずっとある。

生き返らせなくていい。そうお父さんに言われた時に、自分のこの罪悪感はずっと残るのだろうと思った。


「・・・そうか、悟空さらしいだ」


お母さんは僕に何も言わなかった。ただ、誰も見ていない所でひっそりと泣いていたのを知っている。





そんなある日、お母さんは上機嫌で僕の勉強の時間を中断させた。


「悟飯、いいニュースだ」

「いいニュース?」

「・・・・・・悟飯は、お兄ちゃんになるだよ」


優しく自分のお腹を撫でながら言うお母さん。僕は驚きのあまり手に持っていたペンを落とした。

机の上で跳ねたペンはそのまま床へと落下して転がった。僕はしばらくの間、じっとお母さんを見つめていた。


「僕が、お兄ちゃん・・・?」


やっと出た言葉はあまりにも在り来りな物で、でも他に何を言った良いか解らなくて。

ただ一つ解ることは、とても嬉しいことだということだけだった。





「お兄ちゃん、か・・・」


産まれてくるのは男の子か女の子か、気になって気になって仕方ない。毎日毎日そわそわしてしまう。

ついこの間、街の本屋さんまで行って育児の本を立ち読みしてしまった。

父親のいない弟か妹のために、僕がしっかりしようと思った。僕が守ってあげようと思った。

正しいことを正しいと教え、悪いことは悪いことだと教えてあげたい。そして、この世界の素晴らしさを教えてあげたい。

父とその仲間たちと、僕が守ったこの地球のことを精一杯教えてあげたい。


「よーっし!僕、頑張るよっ」


だから早く産まれて来てね、僕等は君の誕生を心待ちにしているよ・・・

そんな想いを込めて、日に日に膨らむお母さんのお腹を撫でて毎日のように話しかけた。





「えっ、ふ、双子ぉ〜!?」

「そうだ、いっきに二人のお兄ちゃんだ」


性別はまだ聞いていなくて、産まれてからのお楽しみらしい。急に下の弟妹が二人も出来るなんて。

楽しみだけど、それと同じくらい不安だった。でもきっと、お母さんの方がもっと不安だろう。

一人でも大変なのに二人もいっぺんに産むだなんて。


「一人でもかなりキツいのよ?それを二人も同時に・・・」

「や、やっぱり、そうなんだ・・・」

「悟飯君が、チチさんを支えてあげなさいね」

「・・・・・・はいっ」


こっそりブルマさんに聞くと、思った以上に双子を出産することは大変らしい。

僕は今まで以上にお母さんのお手伝いをした。少しだけ勉強の時間は減ったけど、なるべくお母さんの負担を減らしたかった。

ご飯も自分で作れるようになった。


「・・・二人のお兄ちゃんは、素敵なお兄ちゃんだべ」

「えへへっ・・・あ!」

「ふふっ、早く会いたいって言ってるだよ」


お腹の中の赤ちゃん達はお母さんのお腹を蹴るようになってきた。僕の問いかけに返事をしてくれているみたいだった。





そして、お母さんは無事に二人の子供を産んだ。男の子と女の子の双子だった。先に生まれたのは女の子の方。

男の子はお父さんと僕にそっくりらしい。女の子は家族の中で一人だけ髪の色が薄かった。


「は、ははははじじじめましてっ!」

「そんなに緊張することねぇだよ。悟飯お兄ちゃん」

「お、お兄ちゃん・・・!」


お母さんの腕に抱かれる二人の弟と妹は、すやすやと心地良さそうに眠っていた。触れると温かくて柔らかかった。

とても尊いもののように感じて、恐る恐る頭を撫でた。突然、自分が涙を流していることに気付いた。

嬉しくて嬉しくて、可愛くて可愛くて。訳が解らないほど涙が零れた。


「抱いてみるか?」

「・・・うんっ」


抱き方はもう学んである。赤ちゃんを怖がらせないように、安心させるように優しく抱き上げる。

温かくて驚くほど軽かった。二人を順番に抱き上げて、そして心に誓った。

この二人を兄として、ずっと守っていこう・・・と。










「にぃーちゃーんっ」

「おにぃーちゃぁーんっ」

「なんだ二人共・・・っ!」

「「あーそんでっ!」」

「い、今は兄ちゃん、勉強中なんだけど・・・」

「「おねがぁーいっ!」」


はあ、仕方ない。溜め息をついてペンを持っていた手を休めて立ち上がる。二人はきゃっきゃと喜んだ。

悟飯君は双子に甘い!とこの前ブルマさんに笑われたけれど、コレはそう簡単に治りそうもない。


「わーい、お兄ちゃん大好きぃ」

「ボクも!ボクも大好きっ」

「・・・はは、僕も二人が大好きだよ」


二人が僕を必要としなくなるいつの日かまで、僕が二人を守るんだ。

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