短編集

□私に勝ち目なんてありません
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「ごめん、俺・・・アイツに勝てる自信ない」





私が付き合った人は、みんなそう言って私と別れて行った。まるで『それ』が別れ文句のようにみんなが使う。

でもちょっと待って欲しい。何故、みんな勝とうとする?そもそも何を争っている?何故『あの人』と自分を比べようとする?


「さっぱり分かんないよ・・・」

「なんだセナ、またフられたのか」

「・・・・・・トランクスのせいだ」

「はいはい、俺のせいにすんなって」


十中八九・・・いや、百発百中この人のせいに決まってる。・・・使い方がおかしいような気がするが、それはスルーで。

男子生徒みんながこの人に劣等感を抱いてしまうのはよく解る。けれどもそれは仕方のないことだ。

成績優秀スポーツ万能、それだけでなく顔良しスタイル良し、そんでもって家柄最高。

天は二物を与えず、という諺を引っくり返し否定するような存在だ。天は二物どころか三物四物も与えているではないか。

その割には群がる女子を、面倒だのウザいだのと言うものだから、さらに彼等の劣等感を募らせるわけなのだ。


「はあ・・・もうやだ」

「・・・なんか奢ってやろうか?」

「いい、帰る」

「つれない奴」

「私は今、傷心中なの。物でなんか釣られてやんないっ」


じゃあね、また明日。短く挨拶をしてさっさと家路につく。残念ながら私のイライラの原因の人も付いて来る。

・・・コレも仕方ない、家が同じ方向なのだから。少しだけ私の家の方が遠い。

・・・・・・私達は幼馴染というより、腐れ縁に近い。

たまたま学校がずっと同じなだけだ。さすがに高校まで同じだとなれば、邪険には扱えない。

しかも、母に友人として紹介した際に、母がいたく彼を気に入ってしまったのだ。何処が、とは父の尊厳を守るために言わないでおく。


「そんなに落ち込む必要ないって。アイツはお前に見合うような相手じゃなかったんだよ」

「・・・私が彼に見合う女じゃなかった、の間違いでしょ」

「えらく卑屈になってるな・・・」

「ここまで失敗続きだと、そうもなる」


彼にそう言わせてしまう、私がきっとダメなのだ。もっと巧くやらなければならないのに、思うように長続きしない。

相手は割といい人だ。だから私に非があるのだ。この人と一緒にいることが問題なのかな。

でも今更・・・関わらなくなるのは、無理な気がする。


「・・・セナ」

「なに・・・」

「俺でいいじゃん、もう」

「・・・はい?」

「だーから、俺にすればいいだろ」

「ごめん。言ってる意味が・・・」


どうして急に意味の解らないことを口走っているのだろう、この人は。今までそんな素振りを見せたことなんて一度もなかったのに。

赤面だとか照れる前に、驚きのあまり気の抜けた声しか出なかった。


「今まで、どうしてセナがフられてたと思う?」

「・・・君がいつも私の傍にいて、やり場のない劣等感に苛まれたからでは」

「うん、半分は正解」


半分は、その言葉の真意が気になって私は彼をじっと見つめた。ほんと、どんな顔でも様になってるからムカつく。

もったいぶって、自慢げに彼は口を開いた。


「俺がいつも、威嚇してたからなんだよ」

「・・・はっ?」

「いやあ・・・みんな小心者で本当に助かった」

「なんでそんなことしてたの!?」

「へぇ・・・分かんないんだ」

「分かるわけないでしょ!」


本当に、正真正銘この人のせいで私はフラれ続けていたのか!

掴みかかって胸元をぐってやってやりたいくらいだけど、私にはそんなことできる力はないので、睨み付けるだけにした。

しかし彼にはなんのダメージはない。飄々とした顔はまったく崩れなかった。

そのまま、ぐっと顔を近付けられる。本能的に私は後ろへ後ずさった。


「セナはずっと、俺のだから。後から来た他の奴なんかに、渡せない」

「はあああ!?なに、トランクスは私のこと好きなの!?」

「そうだって言ってるじゃんか・・・」


呆れたように、芝居がかった手振りで落ち込んで見せた。ほんと、こういうのも様になっててイラつく。

今まで、全然そんな感じは、なかったのに。突然、急に、そんなこと・・・


「そんなわけない・・・だって、だって・・・」

「なんとも思ってない奴に、こんなに甲斐甲斐しくしたりしないだろ」

「それは、友達なら、それくらい・・・!」


そう、だって、友達だったから。異性の友達なんて有り得ない、という人もいるけど・・・私はアリだと思う。

友達だからいつも一緒でも、そんなに気にしていなかったのだ。


「で、セナはどうする?」

「えっ?」

「大人しく、俺のカノジョになってくれる?」

「・・・・・・それは、断ったら」

「断るなんて、有り得ないだろ?答えはもう、決まってるんだからさ」

「・・・っ」

「セナはもう、俺がいないと駄目だもんな?」


疑問形でない口調に、私はすべてを見透かされているような気がした。今は、この人の目を見たくない。

見たら、色々と終わる気がする。全部、この人の・・・トランクスの、思いのままだなんて・・・


「・・・最っ悪だ」

「とりあえず、好きとか言ってくれなくていいよ」

「・・・それは、どういう意味でしょうか」


含みしか感じられない言葉に、私は嫌な予感がする。もう答えは出ているだなんて、言っておいて。

ああ、見なきゃ良かった。ほら、もう勝ち誇ったような笑みを浮かべている。


「俺のことを、好きって言わせてみせるから」

「これからが、つらい。勝てる気しない・・・」

「セナが俺に勝てたことなんて、元々ないだろ」

「ほんと、トランクスには敵わないよ・・・」


結局は誰も、トランクスには勝てないのだ。

私の敗北は、もうすでに目前と迫っていた。





(ほんとは俺の方がオチてるだなんて・・・)

(俺の敗北の方が早かったなんて、)

(絶対に言ってやらない)




Fin.

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