短編集

□ドラマよりも素敵な現実
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「ミキは優順不断すぎるのよ!」

「しっかり自分を持たなきゃダメよねぇ」

「ああもう!ヤキモキするっ」

「社長をとるか、カイをとるか・・・」


どうやら昨日の放送で何か主人公がやらかしたらしい。今日も飽きずにみんながドラマの感想を話していた。

ちなみに、その主人公の名前がミキで、学生時代の男友達がカイだ。

どうでもいいことだが、何故か主人公の社長は『社長』のままで呼ばれている。


「社長も社長よね!」

「そうそう!社長はまったく女心を理解してないもの」

「ミキがカイに惹かれるのも分かるわぁ」

「やっぱり、自分が望む時に与えてくれる男性じゃなきゃ・・・」

「ミキが羨ましい!」

「イケメン二人に揺れるだなんて・・・なんて贅沢なの!」


社長はまったく女心を理解していない。この言葉を聞いて、久しぶりに自分に言われているかのように思ってしまった。

俺は、セナのことを理解していないのかもしれない。本当は、別のことを望んでいるかもしれない。

そう思い始めてしまったら、なんだかだんだん俺がダメな男に思えてきて辛くなった。

・・・セナも、ミキのように離れて行ってしまったら。

そんな最悪なことを考えて、今すぐにでもセナに会いたくなった。女々しいと、自分でも思う。

社長室へ急いで帰り、携帯電話を取り出す。メールで『今夜、会えないか』と送った。

昼休み頃に『大丈夫だよ。トランクスの家に行こうか?』と帰って来た。その返信として『会社まで迎えに行く』と送った。

たぶん、これは初めてのことだ。セナも驚いているに違いない。

彼女からの返信は『分かった』と短いものだった。










「会社まで、本当に迎えに来るなんて。しかも自分の車で・・・」

「たまにはいいかな、と」

「・・・そっか」


俺から言い出した全てのことに、セナは何も聞き出そうとはしなかった。

ただ一言、ごめんとだけ伝えると彼女は笑った。私も会いたかったから大丈夫だよ、と言って。


「はい、コーヒー」

「わあい、ありがとう」

「・・・あのさ」

「ん?」

「・・・・・・ミキは、社長と結婚すべきじゃなかったのかな」


遠回しにしか訊くことができない臆病な俺に、どうか気付かないで欲しい。そう思うくせに、気になってしまう・・・本当にダメな男だ。

セナはコーヒーを一口飲んで、俺の方へと向き直った。


「私ね・・・あのドラマ、最終的にはちゃんとミキと社長が幸せになると思うんだ」

「えっ・・・?」

「確かに社長はミキを放って置きすぎだと思うけど、ちゃんとミキのこと愛してるもの」

「どうして、そう思うんだ?」


セナの話ではとても良い夫とは言えない。本当に妻を愛しているのかさえも疑問に思うほどだ。

あくまで私の予想だけど。そう言って、彼女はまたコーヒーをまた口に含んだ。


「省いた『ひょんなことから』の中に、二人の出会いがあるんだけど・・・」


ミキと社長の出会いは、廊下での衝突。明らかに社長の方に非があったのに、ミキは頭を下げて謝った。

そして社長もつられるように謝ったのだが、ミキは「社長、その顔は謝っている顔ではありません。怒っている顔ですよ?」と言ったそうだ。

その時、ミキは上司から仕事を押し付けられてイラついていたのもあって、そう言ってしまったらしい。


「そう言われて社長はミキに興味を持つの。そして、生まれて初めて自分自身を見られたの」

「生まれて初めて自分自身を見られた?」

「うん。社長はずっと家族からも周りからも、会社を背負う次期社長としか見られていなかったから・・・」


期待をかけられ続けた彼が、初めて向けられたモノ。なんとなく分かる気がする。

他の人とは違う目で見られて、彼女だけが自分を違う目線で見てくれたのだろう。


「社長は『釣った魚に餌はやらない』って人じゃなくて、よく解ってないだけなんだよ」

「・・・・・・」

「きっとこれから、社長は愛し方を学ぶと思う。そして、ミキはとても愛されていたことに気付かされるはず」


だから決して、ミキと社長の結婚は間違っていなかったと思うな。セナはそう言い切った。

まだドラマの結末を知らないのに、どうしてそこまで言い切れるのだろう。でも、そうであって欲しいと思った。


「それに、いまさらカイの方へ行っても世間体が悪すぎて巧く行かないよ。二人で破滅しちゃう」

「・・・はは、それもそうか」

「まあ、あくまでも私の予想だけどね?」

「でも俺は、セナの予想通りがいいな」


俺がそう言うと、セナは何故か満足そうに笑った。
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