短編集

□指輪と首輪は同じもの?
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ブルマさんがお仕事のために自室にこもっている昼の2時。食後のコーヒーをトランクスと二人で楽しんでいた。

ふと、私はこの間あったことを話そう、と思って口を開く。


「指輪って、ペットの首輪みたいな物だと思うの」

「んぐっ、ごほごほっ!」

「だ、大丈夫・・・?」

「きゅ、急に変なこと言うから・・・どうしたんですか、セナさん」


トランクスは吹き出しはしなかったものの、むせて苦しそうに咳き込んだ。

彼の目が、いったい何を言っているんだ?と尋ねている。

落ち着くのを待ってから、私は話を続けた。


「道に犬や猫がいて、その子が首輪してたら、ああ飼い主がいるんだなぁって思うでしょ」

「まあ・・・そうですね」

「同じように、左手の薬指に指輪があったら、結婚してるか恋人いるなって思うでしょ」

「・・・・・・何か、あったんですか」


湯気がふわふわと舞うコーヒーを一口啜って、ことりとマグカップを置く。

ふう、と息を吐きながら左手に嵌まった指輪を右手で触れた。


「実はねー・・・ナンパに遭ったの」

「え!?いつ、いつですか!?」

「ちょっと待ってトランクス。今その話はどうでもいいの」

「俺にはどうでもよくないですっ!」


がたん、と立ち上がり身を乗り出したトランクスを、手振りで席に着かせる。

本当にこの人は心配性なんだから。と心の中で呟いた。

・・・・・・そんなとこも、好きなんだけどね。


「まあまあ、落ち着いて。不発だったから大丈夫だよ」

「・・・声をかけられた時点でアウトです」

「で、そのナンパを不発にさせたのが、この指輪だったの」





「ねぇねぇ、君・・・暇じゃない?」

「えっ・・・私?」

「そうそう。かわいーね、ちょっと俺とこれからデー・・・あ」

「・・・?」

「ちぇっ。男いるんじゃん。それなら早く言ってよねー」

「な、なんで分かったの?」

「指輪だよ、指輪!俺さー、男のいる子とは遊ばない主義なんだぁ」

「はあ・・・」

「じゃっ、そのお相手の仲良くね!」






街で買い物をしている時に、声をかけられた。相手は見るからに軽そうな男だったが、悪い人ではなさそうだった。


「その時にね、思ったの。指輪ってペットの首輪みたいって」

「効果があって良かったです。でも、ペットの首輪っていうのは、ちょっと・・・」


そう、その時に左手の薬指に嵌まるこの指輪が、なんだかペットの首輪のように感じたのだ。

突然、自分がもう誰かのものであると主張しているように思えて来た。

・・・けれど、ちっとも嫌な感じはしなかった。決して、首輪をかけて欲しいという意味ではなく。


「この指輪、『私はトランクスのものです』ってアピールしてるようなものなんだね」

「ん、ぐっ、げっほ!」

「あーあー、落ち着いて落ち着いて」


席を立って、再び咳込むトランクスの背中を擦ってあげた。心なしか顔が赤い気もする。

慌ててコーヒーを飲んだら駄目だよ、と声をかける。彼は、あなたのせいです・・・と私に言い返してきた。

そんな変なこと言ったかな。事実をそのまま言っただけなのに。


「それがちょっと嬉しいって思っちゃうあたり、私はトランクスのことが大好きなんだね」

「・・・・・・なんなんですか、もう」

「あれ、照れてる?トランクス、照れてるの?」

「照れますよ!照れるに決まってるじゃないですかっ!」


それなりに、やることやってるのに・・・今さら何を恥ずかしがるのでしょうか。でも、こんなとこも好き。

彼の照れ屋さんなところは、可愛いです。


「もういい加減、結婚して下さいよ・・・」

「トランクスが私のこと呼び捨てにして、敬語で話さなくなったらいいよ」

「意地悪ですね、セナさん」


急に立ち上がって背中を擦っていた私の手を取り、そのまま引っ張る。私は抵抗せずにそのまま彼の腕の中に収まった。

そうなんです、未だに私達はまだ結婚していない・・・つまり籍を入れていないのです。

ずっと一緒に住んでるし、結婚しても何かが変わることはないので、なんとなく先伸ばしになってしまっている。

ああそれと、ちょっと彼の反応が可愛いので『おあずけ』してみたりしてます。


「・・・俺がセナさんに敬語を使わず、呼び捨てにできればいいんですよね?」

「うん。前からずっとそう言ってるよ?」

「これはもう癖で・・・なかなか抜けないんですよ・・・」

「知ってる。私に敬語を使うトランクスも好きだけど、敬語なしで接して欲しいとも思うな」

「・・・・・・なんだかずっと、セナさんにやられっぱなしですね」


それはちょっと悔しいな。そう呟いたかと思うと、不意に顔を近付けられて、お互いの唇が触れ合った。

これはちょっとやりすぎたかな?とキスを受けながら思う。

・・・攻守交代、だ。


「・・・セナ。好きだ。俺と、結婚して」


低く耳元で響く彼の声と彼のぬくもり、そしていつもとのギャップで今度は私が白旗を上げる番になってしまう。

心配性で照れ屋だけど、ここぞという時にかっこいい彼に、私はぞっこんなのです。





fin.

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