短編集

□私を見つめるアナタの瞳
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私には、なーんにもない。秀でたものが、なに一つとしてない。

成績は並、中の中のド真ん中で、文系とも理系とも言えない脳を持つ。

運動も並、頭数に入れるにはぴったり!というくらいの運動神経。

容姿に限っては「なんともコメントしにくい」といつも言われる始末だ。

・・・好きで、こんなステータスを持って生まれてきたわけではないと声高に主張させてもらおう。

そんな、何一つとして持ってない私だけれども、何故だか恋人がいる。不思議でしょう?私が一番そう思っています。

しかも、相手は有名な『あの人』・・・人生、何があるか分かったもんじゃないね!

正直、私は彼のことなんて眼中になかったのだが、あちらさんは違ったようで、しつこくしつこく・・・それはもうしつこーくアタックしてきたのだ。

折れた私は彼と付き合うことにした。どうせすぐに終わるだろうと、高を括っていた。

だがどうだろう、実際にはもう一年が経とうとしている。いやほんと、人の心は解らないものだ。


「そう思いませんか、トランクス」

「は?急にどうしたんだ」

「いや・・・人の心って、よく解らないなーと、思いまして」

「ふぅん・・・」


興味なさげな生返事。私の隣を歩く彼は端正なお顔を持ち、背は高い。さらには家柄がとんでもなく良い。

はい、もうお分かりですね。この彼こそが私の恋人なのです。

女子ならば誰もが憧れ、男子ならば誰もが劣等感を抱く彼・・・トランクスは、私の恋人なのです。


「人の心が解ったら、誰も苦労しないだろ」

「・・・うん、そうだね」

「俺だって知れるものなら知りたいよ」

「・・・・・・うん」


何でも完璧なこの人ならば、いつか人の心が読めるようになるのでは・・・と馬鹿げたことを一瞬でも考えてしまった。

そもそも、彼に人の心を知る必要があるのだろうか。何でも持ってる彼は、そんなもの必要なさそうなのに。


「セナは、人の心が知りたいの?」

「えっ!いや・・・そういうことじゃ、ないよ?」

「・・・・・・俺は、セナの心が知りたいけど」

「・・・・・・・・・・・・ん?」


綺麗な青い目が私を射ぬく。私か彼のこういう瞳が嫌いだった。

何もない私を見て、いかに空っぽかを見透かしているような、人の上辺だけでなく中身の奥まで見ているような視線。

私に何もないことは私自身が一番よく解ってる。けれど、それを人に見られて平気でいられるほど、強くない。

私はトランクスの目を、見返せなかった。・・・実は、一度だってまともに彼の目をみたことなんてない。


「本当は、俺のこと・・・どう思ってる?」

「えっ・・・どう、って」

「何でもいい。何を思ってる?・・・セナは」

「・・・・・・別に、何も」

「じゃあ・・・なんで、目を反らすんだ?」


そうだよね、やっぱりバレてたよね。彼は聡明な人だから、些細な行動ですべてお見通しだ。

以前も、私が微熱でなんとなく身体がダルかった時、両親でさえ気付かなかったのに彼だけは気付いていた。

彼に対して思ってることなんて、一つしかない。


「・・・・・・なんで、私なのかなって」

「うん」

「だって・・・私、なんにもできないのに」

「・・・うん」

「すぐに飽きるって思ってた。すぐに終わるって・・・思ってた」

「・・・そっか」

「なんで・・・私なの?」


最後にもう一度、その問いを投げかけた。すべて言い切ったと、私はもう何も言わなかった。

すると、彼ははあ・・・と溜め息をついた。ああ、ついに終わりかな。さすがに、こんなツマラナイ私なんてうんざりだよね。

楽しませてあげられなくて、ごめんね。


「なんでそんなに、卑屈になれるんだ?誰かに、何か言われたのか?」

「釣り合わないとか、そういうこと?・・・言われたことあるけど、それは関係ないよ」

「やっぱり言われてんじゃん・・・」

「だって私、何もできないんだもん」

「何もできなくなんか、ないだろ」

「できないよ。勉強も運動も・・・見た目さえもが中途半端で、ほんとに何もない」


自分で言ってて泣きそうになる。いつもいつも、私が私に心の中で言ってきていたことなのに。

こんなことくらいで、悲しくなる必要なんてない。だって、自分がそう生まれて来てしまったのだから。

恨むこともしない、ただただそうあることを受け入れるだけだ。


「・・・それでも、俺は好きだけど」

「それがおかしいと思います」

「頑張ってるだろ、いつも」

「結局は何もできてないけどね」

「馬鹿だなあ・・・結果も大事だけど、過程も大事だろ?」

「・・・でも、結果が伴わなければ意味がない」

「・・・・・・いいんだよ、別に。俺は頑張るセナが可愛いと思っただけだし」

「・・・・・・・・・・・・ん?」


慰められた上に、可愛いと言われた。どう考えてもお世辞にしか思えない・・・・・・はずなのに。

彼は私から視線をずらし、恥ずかしそうにしているように見える。そんな顔も、するんだな。

・・・彼は、彼だけはちゃんと見てくれるんだ。こんな私を、見てくれてるんだ。


「私・・・勉強できないよ」

「それでも、試験二週間前には勉強始めてる」

「運動もできない」

「できなくても、諦めずに走り続けてる」

「お料理も、できないの」

「調理実習でも割りと手際良かったけどな。経験が足りないだけだって」

「性格、そんなによくない」

「みんなが掃除をサボっても、文句も言わずに淡々とやってる。先生からの頼まれ事も、素直に頼まれてる」


まあ・・・卑屈なとこはあるけど。彼はそう付け足してた。

よくもまあ、私のことを見てるものだ。

私の顔に、そう書いてあったのか。彼は恥ずかしそうにはにかんで、私の心の中の言葉に返事をした。


「好きな子のこと、見るのが普通だから」


なんでもできる人は口説き方も完璧だ。そう思いながらも、私は自分がときめいてしまったことを分かっていた。

本気なんだな、と人事のように・・・そして今初めてそう感じた。


「顔も・・・スタイルも、いいわけじゃないのに」

「それは、誰と比べて?」

「えっ・・・?」

「俺は、セナが可愛いって、思ってる。俺には、可愛く見えてるよ」


この人の目は、おかしいのかもしれない。でも、そうであって欲しいと、このままおかしいままでいて欲しいと思う。

そこで私は、初めて彼の瞳を見た。今までみたいに居心地の悪さは感じない、なんだか逆に気持ちが落ち着く気がした。


「キザっぽい」

「あはは・・・こんな俺は、嫌い?」

「・・・・・・嫌いじゃないよ」

「じゃあ・・・・・・好き?」

「・・・好き」

「ふっ、それは良かった」


トランクスは満足そうに、笑った。過去最高にカッコよく素敵な笑顔だった。なんだか、絵画にでもなりそうな笑顔だ。

今、そんな笑顔を私が独占している。そう思うと、突然私が何もなくないように思えた。


「ねえ、トランクス」

「ん・・・?」

「好きだよ」

「・・・っ!?きゅ、急にどうしたっ?デレ期なのセナ!?」





fin.

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