その他書架

□これからのこと
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 ローテーブルの上には、電子レンジで温められたオクタン焼きが乗っている。
「あっついから気を付けて」
「ありがとう」
 麦茶をグラスに注いで、セナはひと息に煽ると、
「で、はい!」
 紙袋を掲げる。掻っ攫ってきたとかいう戦利品らしい。
 その中身をひとつ取り出し、ローテーブルの上に置いてみせる。
 ストラップが付いたマルチナビ───リオンの物だ。
「これは・・・・・・どうして?」
「リオンちゃんが落としてたんだよ。祭の本部に届いてたのを受け取ってきたんだ」
 お茶請けのクッキーを食んでから、
「で、さらにこれ」
 紙袋の中身を全て取り出す。
 ローテーブルに並んだのは、小さめのショルダーバッグと、その中に入っていたと思われる、モンスターボールやポロックケースや薬の類、少し古いマルチナビ。
 それと、トレーナーカード。
 ダイゴはそこに表記された名前を読み上げる。
「スエツミ・リオン・・・・・・」
 君がさっき言っていた名前だ、とセナをみると、彼女は頷いた。
「知り合いなんだ。さっきも言ったけど、彼女こそ、私が捜していたリオンちゃん」
 リオンちゃんがポケモンの言葉を理解できることも知ってるよー、とセナは言う。
 十ほど年齢が離れているようだが、不可思議な交遊関係だなとダイゴは思った。
「髪の色が違うと言っていたけど」
「それは後で本人に訊くよ」
 記憶喪失のリオンが答えられるとは思えないが。
 セナはショルダーバッグにそっと触れる。
「これは、もうわかると思うけどリオンちゃんの物だ。119番道路の河原で拾得されて届けられた。リオンちゃんが川で流されているときに身体から離れたんだろう」
 マルチナビはオシャカだねぇ、これ、とセナが哀れっぽく呟いた。ダイゴはマルチナビを手に取る。
「もしかすると、無事なデータがあるかもしれない。デボンに持っていってみよう」
「だといいね。サリカさんの件の手掛かりでもあるかもしれないからよろしくね」
「サリカさん?」
「ん、リオンちゃんのお母さん・・・・・・だけど、ダイゴくん、たぶん会ったことあると思う」
「?」
「ポケモンドクターなんだよ、流しの」
 セナが言うには、ポケモン研究も兼業している博士だという。
 ホウエン地方を回りながら、野生のポケモンを治療したり、生態を観察して研究。特に石によって進化を引き起こすポケモンを専門にしているとか。その研究を発表し、博士号を取得したらしい。
「そのサリカ博士と、僕がどこでお会いすると?」
「サイユウシティでポケモンリーグやるときは、ポケモンセンターに人手が足りないから来るんだよ。だから君も見たことはあるはず」
「リオンは連れていたのかな」
「うん、いたよ。でもそのときは髪、栗色だった」
「栗色?」
「サリカさんと同じ色。でもまぁ、ダイゴくん、大会中にドクターのお世話になんてならなさそうだよね。憶えてなくて当然だよ」
「君は、ずいぶん親しいようだけど」
「昔、旅の途中で会ったんだ。
 初めてリオンちゃんを見たときといったらねぇ・・・・・・そりゃあもう天使かって思ったくらいで!
 走って追いかけて捕まえたらさ『捕まっちゃった』ってほっぺた赤くしてこっち向いた瞬間にあぁ私もこんな娘が欲しいなって思ったくらいでさぁ!」
 いやぁ、あれは可愛かった。あ、今でも可愛いけどねぇ、と頬を緩め、何故やらメガニウムに語っている。
 早口過ぎて後半は半分も聞き取れなかったが、とりあえずダイゴがわかったのは、あぁ女性でもリオンのような娘を天使と思うんだな、ということ。
 それ以上の理解は諦めた。
「それから親しくしてもらってるんだ。最後に会ったのは半年くらい前だけど、まめにメールとか電話とかしてたんだよ?」
「ということは、これには君の連絡先も入ってるんだね」
 壊れたマルチナビを持ち上げると、セナはすこし苦い微笑みを浮かべた。
「そういえばリオンちゃんさ、私に会いに来たって言ってたよね。あれ、どういう意味だろう」
「リオンが憶えていたのではなく、マーレがそう言ったのをリオンが言っただけのように見えたけど」
「ということは、マーレとフィオレなら、その目的も知ってるんだよね。だったら後で教えてもらわなきゃ」
 ひとり頷き、麦茶を注ぎ足して、オクタン焼きをひと口でぱくり。あっつ、と悶えているセナに、ダイゴは落ち着き払って切り出した。
「ところで、相談なんだけど」
「ふぉーはん?」
「リオンは、君が保護する方がいいんじゃないかな」
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