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□空を駆ける
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「セナ、これを」
「?」
 ダイゴは昨日のように留守番を頼まれる前に、リオンの古いマルチナビをデボン本社へ持っていくことを決めた。
 その前に、セナに一通の封筒を手渡す。
 怪訝そうに受け取ったセナは、封筒を窓の方に翳す。透かして中身を確認しているのだ。俗っぽい仕種だが、彼女がやると妙な愛嬌がある。
 中には紙幣を入れている。リオンの衣装代としてだ。だから、開けてもらって構わないのだが。
「・・・・・・あー、うん、わかった」
 おもむろに封筒を鞄の中に仕舞い込む。
「余計な世話を掛けてすまないね。リオンのこと、頼んだよ」
「余計な世話? いやいや全然! 私も買い物行きたかっただけだし、ついでだよ」
「そう・・・ならよかった。いい買い物を」
「うん、ありがとう。そっちもいい結果になりますように」
 いってらっしゃい、と片手を振るセナ。いってきます、と返してリビングを抜けると、通路の吊り橋でリオンと会った。
「デボンに行ってくるよ」
「あ、あの・・・・・・」
 彼女は、どことなく不安そうに眉根を寄せていた。
 あぁ、そんな顔もするのか・・・・・・
 日に日に、リオンについてちいさな発見がある。それが、今まで会ったどんなトレーナーとも違って、なんだかとても面白い。
「どうかしたのかい」
「わたしは・・・本当にセナさんとご一緒していいのでしょうか・・・・・・?」
 その言葉の意味を、ダイゴは少しの間図りかねた。
「ダイゴさんに、同行しなくていいのでしょうか・・・・・・」
 恐らく、リオンが危惧しているのは、社長の言いつけのことだろう。
 眼を離すなと、ダイゴの父はリオンに固く命じたのだ。
 それに背かせてしまうのは可哀想だが、セナからすれば紳士服を着続ける方が可哀想だろう。
 それでも、行き先はきちんと告げたし、ここに戻ることも明白だ。
「心配しなくてもいいよ」
 それに、どうせばれやしない。
 ばれる前に、こちらへ戻ってくるつもりだ。
「親父には黙っておこうね」
 と、人差し指を立て、口許に当てる。
 リオンはきょとりとまばたきをしてから、こくこくと頷いた。
「それじゃあ、行ってくるよ」
「いってらっしゃいませ」
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