御伽噺書架
□兄妹が迷い込んだお菓子の家
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ひっひっひ、と笑い声を立てながら、老婆は子どもたちがすっかり寝入ったことを確認すると、勘右衛門を地下の牢屋に入れてしまいました。
老婆は悪い魔女だったのです。
衝撃で、勘右衛門は眼を醒ましました。
「痛っ・・・・・・」
「ひっひっひ」
魔女が笑っているのを見て、勘右衛門は理解しました。
「俺をどうするつもりなの? それとも媛になにかする?」
「ひっひ、なかなか活きがいいね。食べるんだったらそれくらいの方がいいわい」
「食べ・・・・・・!?」
「でもお前はガリガリだから、太らせてから食べようかねぇ」
そう言うと、魔女は地上へと上がっていきます。
勘右衛門は怖気を振るいましたが、ここを脱出する手掛かりはないかと牢屋の中をよく見てみました。
ベッドと、簡素なテーブルとイスが置いてあります。お菓子ではなく、木で出来ているようです。
あとは特に、めぼしいものもありません。牢の扉も鍵を壊せないか試そうとしましたが、自分がなにかしでかして媛を殺されるようなことがあってもいけないと思い、ひとまずは止めておきました。
朝になって、魔女は媛を叩き起すと、勘右衛門を太らせるための料理をこしらえるよう言いつけました。
媛はなにがなんだかわかりませんでしたが、媛は言われた通り、水汲みから始めました。
料理を作りながら、媛はテーブルの上をちらと見ました。そこには昨日とまったく同じの、花瓶に生けた花が飾ってあります。
「・・・・・・不思議ね。昨日食べたものが元に戻ってるわ」
つぶやいて、媛はふと父親のことを考えました。
父親は、今どこにいるのでしょう。家には帰れたのでしょうか、それとも、まだ森のどこかを彷徨っているのでしょうか。
母親はどうしているのでしょうか。自分たち子供のことを、心配しているのではないでしょうか。
そう考えると気が気ではありません。ですが、手を止めていると、魔女は怒るのです。煮炊きの音がしなくなるとわかるので、それでぐずぐずするなと怒鳴るのです。媛はおろおろしながら料理を作りました。
数日経った或る日のこと。
媛は、魔女に作らされたご馳走を勘右衛門に運びました。
「勘右衛門くん、勘右衛門くん・・・・・・」
「なに?」
「あんまり食べちゃわないでね、太ったら魔女に食べられてしまうわ・・・・・・」
「だから媛と半分こしてるじゃないか」
「うん・・・・・・」
数日のうちに、勘右衛門の身体は幾分か肉を付けました。とはいえ、元がガリガリだったので、健康的の域を出ません。
地上から魔女が降りてきました。媛ははっと身を強ばらせて黙ります。
「ひっひ、勘右衛門。少しは太ったかい? どれ、指を出してごらん」
「はぁい」
と、勘右衛門が差し出したのは、鶏ガラを取った骨でした。
「まだガリガリじゃないか!」
眼の見えない魔女は怒って言いました。
「こうなりゃ、まだまだ料理を奮発しないとね!」
魔女は怒りながら地上へと戻ります。
「か、勘右衛門くん・・・・・・どうやったら逃げられるのかな・・・・・・」
「逃げる、か」
勘右衛門は考え込みました。
「魔女が、邪魔だよね」
「魔女が・・・・・・」
媛はうつむきながら繰り返しました。
「父さんと母さんのところに帰りたい・・・・・・」
媛は泣き出してしまいました。そんな妹に、勘右衛門は檻の隙間から腕を伸ばして頭を撫でます。
「媛、心配しなくていいよ。泣くのはおやめ」
ニコニコしながら勘右衛門がいうので、媛はどうしてと訊ねましたが、勘右衛門は答えてくれませんでした。