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□休戦のはじまり
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視界が急速に歪んで、頬を水分が伝う感触とともに晴れた。
スエツミ・サリカが殺害された。
殺された。
サリカが。
死んだ。
わたしのお母さんが。
わたしのお母さんが、死んだ。
────取り返しのつかないことになった。
そう思った。
過去の自分が大事にしていたものが、失われてしまった。
『リオン』達の大切な人が、この世からいなくなってしまった。
記憶には、母などいない。
けれど、身体が憶えている。
言葉の意味が、心より先に身体を浸蝕する。
憶えていない昔に、抱き締めてくれた母親。
この手がポケモンたちを抱くように、腕のぬくもりを教えてくれた母親。
指先が冷たい。
頭が痛い。
息が苦しい。
喉が支える。
涙が止まらない。
そんな自分を見て、周りの反応はさまざまだった。
驚く者。
動揺する者。
唖然とする者。
泣く者。
「死んだ・・・・・・?」
ツルイが、涙を流していた。
瞳を揺らして、狼狽えながら。
母の命を奪った張本人が。
「死んだ・・・・・・? 嘘ですよね?」
ジュンサーは仁王立ちのまま、黙って睨み付けている。するどいまなざしと無言の肯定は、この場の誰もを固まらせた。
「スエツミ・・・・・・サリカ・・・・・・? スエツミ博士が・・・・・・ですか?」