短篇書架
□泣くも笑うも、今だけは。
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荷車を押し進める度、積んだ飼い葉がはらはらと落ちていった。このでこぼこの道では仕方なかったが、あとで掃除しなくてはならないかと思うと気が重い。加えて、
・・・・・・暑っ
秋とはいえ、残暑厳しい。下手に動くと暑さで疲れる程だった。
快晴の今日など、陽の下で荷物の運搬をするだけでうだりそうなものだった。
もっとも、忍術学園の五年生ともあらば、その程度容易に乗り切りそうなものだったのだが。
荷車を飼育小屋の傍につけ、八左ヱ門は飼い葉を籠に積み入れる。八左ヱ門の存在に気づき、飼育小屋の動物たちが騒ぎ出した。食事をねだる彼らに、もう少し待ってくれ、と声を掛けながら、一心に飼い葉を移していく。
最後のひと束を、纏めて勢いよく籠に放る。
とたん、バランスを崩し、八左ヱ門は飼い葉に頭から突っ込んだ。どわっ、と漏れた悲鳴は、飼い葉に吸い込まれていった。籠が破損したのだろう、雪崩た飼い葉が全身を受け止めてくれた。
めいっぱい、太陽の匂いがする。
はらはらと飼い葉が舞い、背中に落ちる。くすぐったいような、痒いような感覚。
・・・・・・あぁ、片付けなきゃなぁ・・・・・・。籠も直さねぇと・・・・・・。
冷静で憂鬱に彼はそう思った。
思ったが、飼い葉に沈み込んだ身体が動かない。
背に落ちる陽が暖かい。
・・・・・・眠い。
昨夜から、ろくに眠っていない。殆ど徹夜で虫籠を修理していたのだ。
それもこれも生物委員会に予算がないから・・・それで納得してしまうから悲しい。
・・・・・・そもそも予算に困ってない委員会があるのだろうか・・・・・・作法委員会か。羨ましいなんて思ってないぞ。うちだって委員長さえいれば・・・・・・。
脳裏に過ぎるは、やたら弁の立つ緑衣の男。
同時に、自分では彼の代わりが務まらないのかとやるせなくなる。
来年には、彼の後を継いで自分が委員長を担うというのに、彼のように采配を振るえる気がしない。
今は、ただ、
早く帰ってこねぇかな・・・・・・
そんなことを、飼い葉に埋もれながら思う。