御伽噺書架

□迷える王子と眠れる森の姫の狂騒
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 或る国の王さまとお妃さまの間に、それはそれは可愛らしいお姫さまが生まれました。王さまとお妃さまは、お姫さまに媛と名付けました。
 或る時、王さまとお妃さまは、媛の御披露目のパーティーを開きました。パーティーには国の名士や十二人の魔法使いを呼び、盛大なものにしました。
 十二人の魔法使いは、媛にお祝いの魔法を掛けました。或る者は健やかに育つ魔法を。また或る者は美しく育つ魔法を。
 そして、十一人目の魔法使いが聡明に育つ魔法を掛けた、その時です。
「どうして私は呼ばれなかったのかしら」
 と、喚き散らしながら、魔法使いが現れました。
 この魔法使いは悪いことばかりに魔法を使うので、国中の嫌われ者なのです。なので、王さまもお妃さまも、この魔法使いだけは呼ばないでいたのです。
 それなのにのこのこやってきた魔法使いは、媛が眠る揺り籠を覗き込んで高々と笑いました。そして媛を抱き上げると、口の中で不思議な言葉を唱えます。
 そのとたん、媛は泣き出してしまいました。魔法使いは彼女を鬱陶しげに揺り籠に戻しました。
「このお姫さまは十五歳になったら錘が刺さって死ぬ」
 魔法使いはそれだけを言うと、また笑って去っていきました。
 王さまもお妃さまも、大混乱です。せっかく授かった娘なのに、自分たちがあの魔法使いを呼ばなかったがために、とんでもない将来を決定づけられてしまったのです。
 お妃さまがわんわん泣き、王さまが狼狽えながら宥めます。
 そこで、まだ媛に魔法を掛けていなかった魔法使いが言いました。
「あの魔法使いの呪いを消すことはできませんが、修正ならできます。死を免れる代わりに、百年の眠りに就くよう、修正いたしましょう」
 王さまとお妃さまは十二人目の魔法使い感謝しました。
「本当は素敵な伴侶に出会える魔法を掛けて差し上げたかったのですが・・・・・・」
「健やかで聡明で美しく育てば、おのずといい人が現れるというものさ!とにかく、ありがとう!これで媛の未来は奪われずに済んだ!」
 次の日、王さまは国中に糸紡ぎ機を燃やして捨てるようお触れを出しました。それからひと月もしないうちに、国から糸紡ぎ機はひとつもなくなったのでした。


 媛が十五歳になりました。魔法使いから授かった魔法のおかげで、怪我ひとつ、病気ひとつ知らず、聡明で美しい姫に成長した彼女には、すでに結婚の話が整っておりました。
 誕生日に、婚約者である隣の国の王子の城に招待されていました。十五歳のお祝いと、婚約の正式な発表をするためです。
 宴の時間になるまで、媛は城の中を見て回りました。
 すると、聞いたことのない音が、ある部屋から聞こえてくるのです。
 媛はそこに入ってみました。
 そこで作業をしていた老女は、媛に驚いていましたが、ここに入った理由を言うと、なんの作業をしていたのか教えてくれました。
 そのやり方も教わり、すこし触らせてもらうことになりました。
 しばらくすると、時間になったと呼びに来たお付きの下女は、大変驚きました。
 すぐにそこから離れるようにと、大きな声で怒鳴ったのです。
「すぐにその糸紡ぎ機から離れてくださいまし!」
 その声にびっくりした媛は、錘を落としてしまいました。
 それを慌てて拾い上げた時、錘の先が指に刺さりました。
 そうして、媛に掛けられた魔法は、死の代わりの百年の眠りをもたらしたのです。

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