御伽噺書架

□運命を結んだ金の糸も元は只の藁
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 或るところに、貧しい父と娘が暮らしていました。
 父親は、娘のことをそれはそれは大切にしており、たいへん自慢に思っていました。
 ある日、父親が森で薪拾いをしていると、ひとりの若者と出逢いました。若者は暇そうでしたので、父親は彼を捕まえて、娘の媛の自慢話を始めてしまいました。
「娘は本当にいい子なんだ」
「そうなんですか」
「料理の腕はお城のお抱えシェフにも負けやしないさ。裁縫だって大通りの店の針子顔負けさ」
「すごいですね」
「おまけに美人で気立てもいい」
「ぜひお会いしてみたいものです」
 若者が調子よくおだてるので、父親はすっかり気をよくしてしまいました。
「それだけじゃないんだ。媛は、藁を紡いで金の糸に出来るんだ」
 父親は、嘘を吐いた罪悪感が少しはありましたが、若者はにこにこと笑っていたので、騙した意識はなくなってしまいます。
「そんなに素敵な女性なら、お嫁さんにしたい人はたくさんいるのでしょうね」
「そうだな。でも、媛と釣り合うのは、この国の王さまくらいだよ」
「あはは。そうですか。本当に、大切な娘さんなんですねぇ」
 もちろんさ、と父親は誇らしげに答えます。ちょうどそこに、ご飯の用意が出来たと、媛が父親を呼びに来ました。
「あぁもうそんな時間か。どうだい、せっかくの媛の料理だ。君も食べていかないかい?」
 父親は若者を誘いましたが、若者は断りました。とても美味しい料理なら、僕が横取りするわけにはいきませんと言うのです。
 最後まで気のいい若者とそこで別れ、父親と媛は帰路に着きました。


 それからしばらく経った或る日、媛の家の前に、立派な馬車が止まっていました。馬車から出てきたのは、これまた立派な服に身を包んだ、王さまの使者でした。
 使者は、王さまが是非媛に逢いたいと仰っていると言うのです。
 媛がわけもわからず返事に困っていると、父親は、娘以上に慌てました。
「媛殿は藁を紡いで金の糸に出来るそうですね。その力、王さまが是非見てみたいと申しておるのです。どうか、城へお越しください」
 父親は、森で会った若者が言い触らしたのだと思って腹を立てていました。けれど、最初に嘘を言い出したのは自分です。もし、この場で使者にあれは嘘だと白状しようものなら、王さまを騙したことになります。そうなれば、自分たちはどうなるのでしょう。
 父親のただならぬ様子に気付いた賢い媛は、父親にそっと囁きました。
「大丈夫。お父さんは気にしないで。わたしが謝ってくるよ」
 媛は、にっこり笑って使者と一緒にお城へ行ってしまいました。

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