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□ヒワマキシティのお祭り
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 シエロ・フェスタ。
 本日、ヒワマキシティにて開催されるこの祭は、この町の発展を願い、魅力を外部にアピールするという主旨の元、地元住民が朝早くから立ち働いていた。
 ダイゴの友人、地元警察官のセナもそのひとり。
 セナは、屋台が立ち並ぶ通りのパトロールに勤しんでいた。
 祭の開会時刻はまだだったが、通りはすでに賑わっていた。観光客の入りも、この時間にしては上々で、早くも客引きの声が溢れている。
「らっしゃい、らっしゃーい。オクタン焼きはいかがっすかー」
「コイキング掬い、やっていきませんかー? 元気なコイキングがいーっぱいですよー」
「いらっしゃいませー。出張ポケモンカフェですよー。可愛い可愛いポケモンと触れ合っていきませんかー」
 観光客の陽気さもあって、屋台の人々もにこやかだ。祭は早くも成功の予感がした。
 あとは事件もなにもなく・・・あっても迷子くらいで済んでくれれば
 始まる前からそんなことを考える。祭云々がなくても、地元で事件など起きて欲しくない。
 そう例えば、賑やかな往来で、屋台に眼もくれない男が、今働いた───スリなんて事件さえ。
 セナは近付いて、彼の肩にぽんと手を置く。
「おにーさん? ちょーっといいかな」
 今盗った物───さえ言う間もなく、彼は一瞬、眼を瞠るとセナの手を振り払って走り出した。周囲の人々が、何事かと視線を向ける。
 すれ違う人々にぶつかって怒鳴られながらも、男の足は止まらない。
 男が強引に道を開けるものだから、セナの追跡は容易なもので、あっと言う間に距離を詰めた。
「さぁ、おとなしく降参したらどうだい?」
「くっ、いけぇ!」
 男はモンスターボールを放ち、選出したムクホークに飛び乗ると、そのまま逃れようとする。
 突然のことに、周囲の観光客は唖然としていた。逆に、顔見知りの地元住民は、面白がってセナの名を呼ぶ。
「ひゅーっ! ムクホークとはかっこいいねぇ! あのトサカと堂々たる滑空しせ──」
「黄色い声出してる場合かー!」
「早く捕まえちまえー!」
「わかってるって! 出番だよスー!」
 どやされながら、セナが放ったポケモンは、オオスバメのスー。
「つばめがえし!」
 セナの手持ちで最速を誇るスーは、難なくスリ犯を乗せたムクホークを攻撃する。
 その衝撃でバランスを崩したムクホークは、男を背中から落とした。
 情けない声を上げて男が空中でじたばたする。周囲からどよめきがあがった。
「ハイネ! あの人を確保!」
 次にセナが放ったのはメガニウムのハイネ。甘い香りとともに登場したハイネは、恐ろしい勢いでつるのムチを伸ばすと、優しく男をキャッチした。
 つるのムチに雁字搦めに捕らわれた男は、ぐうの音も出ない様子で地面に下ろされる。彼のムクホークは温和なもので、捕まったトレーナーの傍に降りてきた。
「ありがとう、スー、ハイネ!
 さぁおにーさん。署までご同行願──」
 びしっと恰好付けたセナだったが、電子音に遮られた。
「もう・・・決まらないなぁ、・・・・・・はい、セナです。
 ・・・・・・はい? あ、はい、えぇ。・・・・・・そうです。憶えておいででしたか。
 ・・・・・・え?」
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