その他書架
□嗚呼、救世主さま!
1ページ/6ページ
この時。
ダイゴの友人から誘われた祭にやってきては、それとは全く関係のないトラブルに巻き込まれ、自分の味方をするポケモンが現れ、ツルイと名乗る謎の男と対峙するこの時。
リオンが憶えたのは、奇妙な既視感だった。
前にも同じことがあった。
ツルイが、以前自己紹介したと言ったのだから、ツルイとその言葉に既視感があっても不思議ではないのだが、なにかが引っ掛かってしょうがない。
そうだ、彼は先ほど言ったではないか。貴女の連れがいつもいつも邪魔に入るもので、と。
連れとは、ポケモンのパートナーではなくて、一緒に行動していた人間のことだろう。
それが誰なのかはわからないが、自分がツルイと対峙した時、その人物が彼を追い払ったのだ。
容赦なく、その思想を否定しながら。
それに対する、怒りの表情。
思い通りにいかなくて憤る人間の思想が、正常であるはずがない。ましてや、それが世界を語るものなら。
そういった種類の人間は、暴力的な正当を厭わない。だが、ツルイが今出しているポケモンは、圧倒的な力を持っているとは言いにくい。弱いわけではないが、暴れることを好まず、比較的簡単に制圧されるポケモンである。
だから、来ると読めた。
破壊に長けた力を持ち、暴虐を恐れられるポケモンが。
ツルイが取った高級なモンスターボールから、放たれる。
青白い光が眼を射抜き、暗転が治まると、咆哮が響き渡った。
青い頭に黒い身体。
きょうぼうポケモン、サザンドラ。
それが現れた瞬間、フィオレが恐怖で強張ったのをリオンは見逃さなかった。マーレの警戒が一層強くなる。
「さぁサザンドラ。あくのはどう!」
サザンドラが、黒と紫のエネルギーを溜める。
チャージは一秒もかからないだろう。
当たれば命が危ない。
人間の身体能力では、躱せない。
頭を守るにしても、フィオレを抱えていては無理だ。
フィオレだけでも守らなければ───
走馬灯のように歪んだ長い瞬間で、リオンが考え付いたのは、フィオレを投げることだった。
遠くへ。
マーレに、受け止めなさい、と命じる。
このハクリューなら、フィオレを連れて逃げられると、確信出来たから。
覚悟をした刹那、強い声に名前を呼ばれた。
そして、悪いけど断る、とのマーレの声。
どうっと鈍い音が聞こえた。
波動の衝撃は、こない。
固く閉ざした眼を開く。
サザンドラは、地面に縫い止められていた。
サザンドラの身体を覆うのは、緑の蔓草。
フィオレのやどりぎのタネだった。
サザンドラの右翼が凍り付いている。アトラのれいとうビームだ。
それらの技を当てる隙を作ったのは、マーレ渾身のしんそくだった。
「リオンっ! 逃げよう!」
不自然な大勢でやどりぎのタネを放ったフィオレを咥えるマーレに急かされ、アトラをモンスターボールに戻すと、リオンは走り出した。
その背後に、ツルイの呟きが落ちる。
「貴女って人は・・・・・・本当に、ポケモンに愛されているのですね」
それぞ救世主の在るべき姿・・・・・・と。